- 分類読書感想
小川糸著「つるかめ助産院」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
失踪した夫を捜して南の島を訪れたまりあは、助産院の“つるかめ先生”と出逢い、妊娠していることを教えられる。捨て子だった過去から、自分に生きる価値はないと考えていたまりあだが、助産院で働く人々や妊婦仲間との交流を通して、世の中での自分の役割を見出していく。遂に訪れた出産の日、陣痛の果てに息子を産み、駆け付けた夫と再会する。
孤独な女性が南の島のあたたかい人々に見守られて命の育みを知る再生物語の部分は、優しい世界でトントン拍子に巧くいく面もあるけれど、現実感もちゃんとあって、小説らしく上手に嘘をついていると思います。妊婦の事情(心情、出産にまつわる苦労)は、知らないことだらけで勉強にもなりました。
また、登場する料理が美味しそうで、出産中にまりあが希望した「ハイビスカスの天ぷら」は私も食べてみたくなりました。
ただ、面白かった……という感想で終わることはできない、ストレスがあります。
まず、夫がなぜ家を出て行ったのか終始一貫わからないので、澱みを感じました。小野寺君が何を考え失踪したのかわからないままでは、また消えるのでは?と疑ってしまいます。
再会できた理由も、長老が夢枕に立ったので島に来たというオチで、釈然としません。そこだけ突然ファンタジックな話になったので、「食堂かたつむり」の作者だと意識させられました。
また、サミーも結局何者だったのか、わからないまま終わっていたと思います。私が読み飛ばしてしまったのでしょうか。彼が抱えている家族の問題はなんだったのか、描かないのであれば、触れない方が良かったのでは。せめて長老の許嫁のエピソード程度に想像のヒントがあれば許容できたのに、と残念に思いました。