• 2016年08月16日登録記事

ポール・アダム著 青木悦子訳「ヴァイオリン職人の探求と推理」

【あらすじ】
クレモナのヴァイオリン職人ジャンニは、殺された同業の親友トマソが「メシアの姉妹」と呼ばれる幻のストラディヴァリを探していたことを知り、友人の刑事と共に探求に乗り出す。

面白かった!
原題は「THE RAINALDI QUARTET」という素っ気ない題ですが、非常に適切な邦題にされて良かったです。「ヴァイオリン職人」というキーワードがなかったら、恐らく手に取らず、出逢えなかった一冊でした。

連続殺人ミステリーではあるものの、主人公ジャンニ・カスティリョーネは老ヴァイオリン職人ということで、全編に美しさと乾燥と落ち着きが満ちているように感じました。
ストラディヴァリやグァルネリ・デル・ジェスといった名器については勿論、音楽、土地、人に対する考察や描写も堪能できます。舞台となる時間軸・土地が広大で、それに伴い登場人物も多く、少し混乱する箇所がありましたが、その苦労も面倒ではありません。ヴァイオリン経験者なら惹き込まれると思いました。
ただ、ミステリーファンには、肝心の推理が唐突且つ少し無理矢理な部分もあって、批判されそうかな……とも思いました。
殺人事件の推理よりも、ヴァイオリンへの愛と探求がメインのお話として捉えれば、満足できるでしょう。