• 2016年05月登録記事

小川糸著「つるかめ助産院」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
失踪した夫を捜して南の島を訪れたまりあは、助産院の“つるかめ先生”と出逢い、妊娠していることを教えられる。捨て子だった過去から、自分に生きる価値はないと考えていたまりあだが、助産院で働く人々や妊婦仲間との交流を通して、世の中での自分の役割を見出していく。遂に訪れた出産の日、陣痛の果てに息子を産み、駆け付けた夫と再会する。

孤独な女性が南の島のあたたかい人々に見守られて命の育みを知る再生物語の部分は、優しい世界でトントン拍子に巧くいく面もあるけれど、現実感もちゃんとあって、小説らしく上手に嘘をついていると思います。妊婦の事情(心情、出産にまつわる苦労)は、知らないことだらけで勉強にもなりました。
また、登場する料理が美味しそうで、出産中にまりあが希望した「ハイビスカスの天ぷら」は私も食べてみたくなりました。

ただ、面白かった……という感想で終わることはできない、ストレスがあります。
まず、夫がなぜ家を出て行ったのか終始一貫わからないので、澱みを感じました。小野寺君が何を考え失踪したのかわからないままでは、また消えるのでは?と疑ってしまいます。
再会できた理由も、長老が夢枕に立ったので島に来たというオチで、釈然としません。そこだけ突然ファンタジックな話になったので、「食堂かたつむり」の作者だと意識させられました。
また、サミーも結局何者だったのか、わからないまま終わっていたと思います。私が読み飛ばしてしまったのでしょうか。彼が抱えている家族の問題はなんだったのか、描かないのであれば、触れない方が良かったのでは。せめて長老の許嫁のエピソード程度に想像のヒントがあれば許容できたのに、と残念に思いました。

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ヤングジャンプコミックス・藤崎竜版漫画「銀河英雄伝説」2巻

さすが週刊誌、刊行が早いです。
展開自体は、ラインハルト側は惑星カプチェランカの初陣(「黄金の翼」収録「白銀の谷」)、ヤン側は第六次イゼルローン攻防戦の開始(同「千億の星、千億の光」)という進み具合なので、遅いくらいですが。 

惑星カプチェランカの登場人物2人は、原作では実行者と指示者程度の差しかなかったのに対し、フーゲンベルヒ大尉に人格を加味し、別個の個性に分けて、エピソードに深みを持たせたのは面白いな、と思いました。
ラインハルトの潔癖さも、キルヒアイスの目を通して描かれると、より主人公らしく、格好良く見えました。

さて、初登場したヤンですが、告知イラスト等でチラホラと姿が見えていたこともあり、藤崎竜版ラインハルトを初めて観たときのような衝撃はなかったです。原作通りに描写すると、こうなるよなという感じ。
それより、キャゼルヌ准将が眼鏡キャラだったことに衝撃を受けました。
銀英伝らしくない、と思ってよくよく考えると、眼鏡という物自体、原作に存在しないですよね。旧漫画版でも、アニメでも、使われなかったのでは。「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」で、グレーザー医師@松風輝が眼鏡を掛けていた程度かな。慣れるまで、少し掛かりそうです。
猫の「元帥」は、アニメ版からの流用かな。なんだか妙に「ゆるキャラ」っぽい造形で、一匹だけ時空が違う生き物で笑えます。特に、ルンバに乗ってるのがお気に入りです。

池井戸潤著「民王」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
総理大臣に就任した武藤泰山だったが、脳波を操られ、頭の中がドラ息子の翔と入れ替わってしまった。入れ替わった二人は出鱈目な答弁をしたり、就職活動の面接で一席ぶってしまう珍騒動を繰り広げる。やがて、黒幕を突き止めた彼らは、翔の友人が、母親の病死から医薬品認可の緩和を求めて黒幕に協力していたことを知る。元の身体に戻った泰山は、党と製薬会社との関係を無視して緩和法案を通し、解散総選挙に踏み切る。一方、翔も内定に汲々とせず理想を語った父のお陰で最終面接に進んだ会社に合格する。

サクっと読めて、肩の凝らない痛快エンターテイメント。
最後は、父子が立場を入れ替えることで、お互いを理解して、翔は人間的に成長し、泰山は初心を思い出すということで気持ちのよい終わりかたでした。

ただし、現実にあった出来事がネタになっているため、私は読んでいる間も脳裏に現実がチラつき、手放しで面白い!とは思えませんでした。
「史上最強の内閣」もこの時代だったので、麻生太郎元首相という人物は、ネタにしやすいのでしょう。
日教連問題だとか、泥酔会見だとか、ありましたね。
とはいえ、漢字が読めないバカ息子の翔が、秘書の原稿を読めず「ミゾユーの危機にジカメンしており〜」とやってしまう辺りは、中継で見ている泰三の反応も含めて笑いました。

翔はとんでもない馬鹿なのに、アグリシステム農業や日ノ出製薬の志望動機が真っ当且つ読ませる文章なので、ネットからコピー&ペーストというオチかと勘繰ってしまいました。私の方が発想が下衆だった(笑)。

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ネイチャードーナツのお店floresta(フロレスタ)
http://www.nature-doughnuts.jp

一番基本の「ネイチャー」と、どうぶつドーナツの「ブチねこ」を頂きました。
ちゃんと油で揚げているのに、油分をまったく感じません。
普通、ドーナツは紙袋で持ち帰ると、袋に油が滲むのですが、この商品はまったく油が出ませんでした。
ドーナツとして考えると少し物足りない気もするけれど、とても優しい味わいで、私は好きです。

ネイチャーは、本当にシンプル。
どうぶつドーナツは味がついているので、こちらの方が美味しく頂けました。
ねこの体の黄色い部分はかぼちゃ味、茶色い部分はカフェラテ味のホワイトチョコレートでした。
ただ、耳がアーモンドで出来ているので、そこだけ硬い食感があり、少し違和感があるかもしれません。気を付けていないと、咥内を怪我するのでないかな。

永井路子著「山霧 毛利元就の妻」

【あらすじ】
大内氏と尼子氏の狭間で恐々と生き抜く中国山地の小領主・毛利元就は、鬼吉川の異名を持つ吉川家から妻おかたを娶った。心配性で愚痴ばかりの元就を、「天と地がひっくりかえるわけじゃなし」が口癖のおかたが明るく支え、夫婦は戦国時代を生き抜く。

面白かったです。
血腥い戦場や、ドロドロとした人間関係が描かれているのに、カラリと笑い飛ばすおかたの性質が出ているのか、どことなくサッパリしています。

けれど、これから毛利家が成り上がり、元就の生涯が盛り上がるというところで、おかたが死んで終わってしまうのは残念至極。史実として、毛利が小国の間におかたが死んでしまうのは仕方ないのですが、非常に消化不良を感じました。この先をもっと読みたかったです。
また、上巻では夫婦の会話が生き生きと描かれ、おかたの存在が元就の決断に影響を与えているのに対し、下巻では戦の描写が増えた分、おかたの存在感が薄れてしまった気がします。

元就の息子たちはいずれも有名人ですが、娘・五もじも嫁ぎ先でしっかり働いて、それぞれが自分の働きを主張するところなどは、なかなか愉快でした。戦国時代の家族のありかた、政略結婚、人質といった要素の紐解きかたも興味深かったです。