• 2011年05月22日登録記事

改めて、宝塚宙組大劇場「美しき生涯/ルナロッサ」5/20(初日)観劇の感想です。

2階席最前列のため、オペラグラスなしで全体を観てきました。プログラムは現時点で未購入です。
上記の理由により、何処に誰が出ていたのか把握出来なかった場もあるので、役者ごとの感想は東京に持ち越します。

正直な感想は「リピートはできる。しかし芝居には大いに物申す」と言うところ。

芝居「美しき生涯 −石田三成 永遠の愛と義−」は、戦国時代なので戦いが中心かと思いきや、ガッツリとした恋愛物でした。
和物ならではの華やかさに、今回ロック調と言う事でカブいた部分があり、ビジュアルを楽しむ面では成功と思われます。関ヶ原の戦いにおける、白の西軍、赤の東軍は素直に格好良かったです。
演出は全体に昔ながらの和物芝居と言う印象だったり、過去の宙組公演とオーバーラップする光景がありましたが、良心的な出来だと思います。
問題は、脚本にあります。前半に力が入り過ぎたのか、後半から急速に失速していました。
ラストでは周囲から沢山啜り泣きが聞こえたように、涙するところがあり、笑いもあり、と緩急は付いているので、好みもあるのでしょうが……
また、外部脚本家と言う事で期待度が高かったのが問題かも知れません。
ネタバレになるため、具体的な突っ込みは後半に隠しました。

ショー「ルナロッサ −夜に惑う旅人−」は、速報でも書いた通り「眼が一つでは足りない」賑々しさ。
人の入れ替わりが激しく、あちこちに興味を引かれると、結局どれもこれも見逃すと言う感じ。次回以降は一人に絞って観ていきたいと思います。もっとシーン構成に盛り上がりとクールダウンを作った方が、見せ場が分かり易くて観易いんじゃないかしら。
一番気に入ったのは「祈り」ですが、写真で販売して欲しいのは「砂漠の豹」の冒頭です。
デュエットダンスが、リフトなし、銀橋なしで、安定している反面、派手さがなかったのだけ残念です。
最初から最後までアラビアンのショーは初めての体験で、全体に新鮮でした。

以下、芝居への突っ込みです。

「美しき生涯」脚本への異議申し立て【完全ネタバレ注意】
麻生が考える、脚本上の主な問題点は下記の通りです。

○秀頼の出生
ヒロインが茶々とわかった時点で「こういう脚本になったら嫌だ」と思っていた通りの展開(秀頼の父親は三成)が、まず辛かったです。もし秀頼が三成の子であったなら、「忠義」も「正義」も彼は口にする資格がなくなるためです。
そもそも、お互いに好き合っていると自覚しながら、茶々に側室になるよう奨める展開も「愛こそすべて」の宝塚的には減点対象なのですが……。

○秀吉の描き方
この作品における秀吉は、主人公が忠義を貫く相手です。しかし前項の通り、不倫相手の夫と言う立場にも同時に立つ必要があります。この矛盾のために、酒に溺れる馬鹿殿だったり悪人のように描かれるところが多々観られました。
秀吉は三成が義を貫くにふさわしい人間なのか?と疑問に感じます。
結果、仕える人物の本質を知らず忠義を捧げている愚かな三成、と言う風にも見えてしまいます。

○仕事の描写がない
三成に茶々の世話以外の仕事をさせてください。
具体的には、民の暮らしを良くするために、槍働きではなく奉行として働いている姿を見せると言う意味です。デュエットで歌った「三つの成すべきこと」の内の、1と3は描いているのに、2つ目(民の安寧)のため働く姿が描かれていないのです。それが無理でも、天下分け目の戦いに際して「家康と三成のどっちが勝っても同じ?」等と民に歌わせるのを止めて、「三成様は不作で飢饉になった村を救って下さった」くらい言わせて欲しいです。仕事ぶりがないと、周囲が優秀と口を揃えても胡散臭いし、本人も単なる口だけ男に見えます。
また、仕事光景があれば、三成と七本槍の対立も台詞で説明するのでなく、エピソードとして描けたはずです。

○日本史が分からない人への配慮不足
鶴松誕生後から、展開がもの凄い勢いで駆け足になっています。
有名エピソードとは言え、観客には子供や日本史に疎い人もいるわけで、台詞だけで「関白秀次の事変」「小早川秀秋の寝返り」など語られても何が起きたのか前後関係が分かりません。鶴松の後に秀頼が産まれた事にすら気付かない人もいそうです。通し役がついていない生徒は沢山いるのだから、作中でちょっとでも登場させて伏線を引き、舞台の中でお話が完結するようにして欲しいです。
また逆に、役がついている人物も描写不足で、七本槍の中で糟屋武則だけ西軍につくのですが、説明がないまま西軍側で踊っているので「途中から七本槍の人数が減った」「西軍水増し用にここだけ二役?」などと勘違いされそうです。

○何時か何処かで観た展開
牢獄のシーン、泣きながら主役の名を呼び、その場に残ろうとするヒロインと、それを引き摺って上手に消えて行く男……と言う光景が、前回公演「誰がために鐘は鳴る」ラストシーンそっくりで、泣き所だけれど泣けないと思いました。
せめて前回大劇場公演の内容くらいは確認して、違う展開にして欲しいです。気丈な茶々を安易に泣かせるより、悲しみを堪えてキッと顔を上げて去って行く、と言う展開の方が感動したかも。
そういえば、1年前の公演「トラファルガー」も本作と同様「史実が元ネタ」「戦争話」「不倫物」「ヒロイン出産」でしたね。あれは更に大幅な史実改変で度肝を抜いてくれましたが。

本作の問題点(5点目を除く)を統合すると、史実改変をしておきながら語り切れない部分は史実に委ねている辺りに、据わりの悪い物を感じると言うのが一番になります。
絵的な美しさや、場として切り取って観れば良いと感じる所はあるものの、それなら劇団座付きの演出家が書く脚本と変わらない、と思ってしまうのが残念でした。