• 2013年06月30日登録記事

司馬遼太郎著「坂の上の雲」

初めに断り書きとして、司馬作品が苦手であることを記しておかねばなりません。
語弊のないように補足すると、我が国の極めて著名なベストセラー作家であり、名調子というべき独特の文体、膨大な資料の読み込みと研究は他の追随を許さぬ大家だとは思っています。単純に、私好みのお話を書く方ではない、というだけです。
また、長編であるためか、後半になると既に以前の巻で語られたエピソードがもう一度紹介されることがあり、それらの余談(蘊蓄)に飽食気味になりました。

日露戦争に突入してからが面白い、という書評もありましたが、私は日露戦争に突入してから読む速度が鈍りました。
というのも、冒頭で、秋山好古、秋山真之、正岡子規の3者を中心とした小説だと銘打っているのに、この3人の存在感が読み進めるほど薄れていくのです。日露戦争自体に関する記載が中心となり、半ばからは、小説というより日露戦争の軍記だと感じました。そのため、日露戦争に参戦している好古・真之兄弟はまだしも、子規はこの作品の中心人物だとは到底思えませんでした。
でも、作中で一番共感できたのは、人の何倍もやりたいことがあるのに病身にある子規だったような気がします。
日清戦争終結までの、子規が生きていた時代は、明治という時代を市井から見ることができて面白かったです。

ちなみに、旅順攻略の失敗をした伊地知幸介等を無能の人として罵倒しており、それ自体は司馬先生が考え描写した小説上の人物像なので良い(※)としても、相変わらず下記のような表現をされるので、不愉快になりました。

自分の失敗を他のせいにするような、一種女性的な性格の持ちぬしであるようだった。

その他の人物では、昭和の作家が、乃木将軍を軍人として無能だったと書く度胸は凄いと思います。
逆に、大山巌は無条件で格好いいと思いました。また、長州人にしては比較的好意的に描かれている児玉源太郎は、愛嬌がある人物でした。

※フィクションとは言え、司馬先生ほど影響力のある作家に実在した個人を扱き下ろされると、子孫の方が可哀想だと思いますが……。