宝塚花組「愛と革命の詩-アンドレア・シェニエ-/Mr. Swing!」18:30回。
- 2013年10月登録記事
近藤史恵著「タルト・タタンの夢」
またも、グルメネタ+日常の謎というジャンルから一冊。レストランの客たちが持ち込む小さな謎にまつわる短編7編。
面白かったです。
迷惑だったり独り善がりで好感を抱けない客が多く、個々のお話はそんなに良いとは思わなかったのですが、物語の舞台である小さなフレンチ・レストラン「パ・マル」が、とても素敵なお店――美味しくて、気取らない家庭的な雰囲気――で、行ってみたくなるのでした。
近所にこんな店ないかしら。
森岡浩之著「星界の紋章」全三巻
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
地上人でありながら宇宙帝国の貴族になった少年ジントは、貴族の義務である兵役に就くため、首都を目指した。しかし、搭乗した戦艦は敵対国家に襲撃されてしまう。ジントは同乗していた訓練兵・皇帝の孫娘ラフィールと共に脱出し、宇宙空間の戦いには強いが、地上の常識には滅法疎い彼女と助け合いながら、帝国の首都まで帰りつく。
銀河を掌握しようとする帝国を舞台とした、ボーイミーツガールと星界戦争。
強い少女とおっとりしているが骨はある少年という鉄板のペアで、展開も非常にオーソドックスですが、王道の面白さを味わえます。
強いて難を言うならば、ジントは父親との確執がキャラクターとしての主題になりそうだったのに、親子の直接の対話がないまま、父親を退場させてしまったのは勿体ないと思いました。
一読すると、ラフィールのキャラクターが強烈な印象を残しますが、実際は語り手である主人公ジントが、世界と読者を繋ぐ巧い役割を果たしていると思いました。
ちなみに、表紙絵からライトノベルだと思っていたので、文中に挿絵がないのは意外でした。
独自の用語とルビ振りの多用はライトノベルっぽいですが、或いはSF界ではこういう文体が主流だったりするのでしょうか。「マリア様がみてる」の紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)とかを思い出しました。
ジャック・リッチー著「10ドルだって大金だ」
星新一のショートショートを読んでいるような、エスプリの効いた短編ミステリー14編。
全体的にシンプル且つ軽妙で、ミステリーといっても読者が推理する要素はあまりなく、プロットで読ませる感じです。
犯人はあまり思い悩んだりすることなく、気軽に殺人するので、カラっとした空気感があります。
解説の「読んでいるあいだはひたすら愉しく面白く、読み終えた後には見事に何も残らない」という説明が、まさにその通りでした。
あまり好みでない話もありましたが、短編集なので、幅があるのは当然ですよね。
私が面白いと思ったのは、「誰が貴婦人を手に入れたか」。大掛かりな仕掛けを作っておきながら、名画を盗まず金稼ぎに生かすという現実的な犯人が良かったです。
妻殺しの「とっておきの場所」はアイデアの勝利。
でも、表題作に相応しいのはやはり「10ドルだって大金だ」だと思いました。
さいたま芸術劇場「ムサシ」London & New York version 12:30回
初演は未見のため、London & New York versionになってどの辺の演出が変わったのかは不明。
バルコニー席だったため、背もたれに背中を付ける正しい観劇スタイルだと舞台の半分以上が観えないという、激しいストレスに晒されながらの観劇になりました。
しかし、そんな不利な条件を乗り越えても、面白かったです。
どこが面白かったのかと言えば、脚本の良さに尽きます。
厳流島の決闘から6年後、生きていた小次郎が武蔵に決闘のやり直しを求め、3日後の朝に決闘することになるが……という導入で、決闘までの3日間を描く物語。そこに沢庵和尚や柳生宗矩の思惑や、父の仇討ちをしようとする娘が登場するなど、粗筋だけ書けばシリアスなのですが、井上ひさしらしいユーモアが満載で、劇中は大いに笑い、劇後は清々しさを感じました。
ちなみに、私が一番好きなのは、仇討ち娘のために小次郎が剣術を教えるも、摺り足の練習が次第にタンゴになってしまうというシーンです。
物語全体の仕掛けとなるオチは、やや反則気味ですが、そのファンタジーさも含めて井上戯曲という印象を受けました。