• 2014年01月31日登録記事

北村薫著「六の宮の姫君」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
大学四年生の〈私〉は、卒論テーマである芥川が自作「六の宮の姫君」を「あれは玉突きだね。…いや、というよりはキャッチボールだ」という謎めいた言葉で評したことを知り、書簡や他の作家の作品にあたって、六の宮の姫君が執筆された経緯を探し出す。

自分は真の本読みではない、と痛感した作品。

なんの説明もなく登場する既知の人物や、今回の物語と関係しない人物に戸惑いましたが、実は「円紫さんと私」シリーズ作品の4作目だったのでした。表紙や裏表紙のあらすじに書いていなかったので、気付かず読んでしまいました。さほど問題はなかったけれど、円紫師匠の登場が唐突だったことと、男言葉で喋る「正ちゃん」の人物像が分からず、飲み込むまで少し時間が掛かりました。

お話としては、特に事件が起きるわけでなく、解いても解かなくても誰も困らない謎をゆっくりと解いていく過程が描かれるだけなので、迫力はなく、地味な作品です。
肝心の「六の宮の姫君」が作られた理由も、なるほどこういう視点で作品を読んでいくとそう読み取れるのか、と感心したけれど、学がなければ読み取る力もない私は、自身の実感として納得できず、カタルシスは得られませんでした。
でも、最後まであっという間に読んだのは、淡々としたごく普通の日常の描写や、会話のセンスが素晴らしかったから。
あと、多数の小説家の名と代表作が上がるので、文学に対する興味が刺激されます。とりあえず、菊池寛は読んでみたいと思いました。

四字熟語が頻出するのは、文学部の学生である〈私〉の表現なのかしら。丁度四字熟語の勉強をした後だから付いていけたけれど、危うく国語辞書を片手に読書しないといけないところでした。
あと、解説を読むまで〈私〉=北村薫=女性だと思って読んでいました。騙されました……。

なお、芥川龍之介による「六の宮の姫君」は下記(青空文庫)で読ませていただきました。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card130.html