• 2014年10月16日登録記事

非常に涼しくなりました。
日誌に載せるつもりで、猛暑をネタにしたAKC小咄を書いていたのですが、オチが決まらないまま夏は過ぎ、肌寒くなってきたので、お蔵入りしました。
せっかくなので内容の一部を残しておくと、「行動シミュレーション」の一貫で、「ルクティ教室の面々が猛暑日の日本に合宿にきたが、合宿場にエアコンはない。どう過ごすか」というお題。


 外出から戻ったイクスが扉を開けると、廊下に行き倒れがいた。
 一人は天を仰ぎ、もう一人は顔を地に伏せ、苦しい呻きをあげている。
 このような局面では、二次被害を防ぐため原因を探りつつ、退避または救護をするのが教本通りの対応だと思いつつ、イクスは左手に提げた荷を軽く持ち上げた。
「……アイス、買って来ましたよ」
 途端、廊下で涼をとっていた二人は生き返った。
 寝そべった体勢から存外元気に上半身を持ち上げたフォウルへ買い物袋を渡すと、横着にも手だけ持ち上げたロアンを引っ張り上げてやる。一瞬だけ姿勢をただした後輩は、しかし手を離すと壁に寄り添う形でずるずると沈んでいった。
 その代わりに、言葉だけ投げてくる。
「教室長ってば、朝の体操に見せ掛けてコンビニ寄ってたの?」
 イクスは出席スタンプを取り出すべきか一瞬だけ考えて、唇の端で笑った。
 失礼な物言いも、単に不満を溢したいだけだと分かっていると、腹は立たないものだ。
 その不平屋の後輩は、買い物袋の中身を確認すると、信じられない、と呟いた。
「これはアイスって言わないよ。試験管で凍らせた氷じゃん」
「いらないならオレが全部喰う」
 言うが早いか、フォウルは二本目の包装を破っている。慌ててロアンも体を起こし、アイス——あるいは氷——を手に取った。
「あ、リートの分は残してくださいよ」


半ば、耐久レースの様相を呈しています。

ちなみに、リートはイクスと一緒にラジオ体操に行った後、近所の子供たちに誘われて遊びに行ったので不在。意外と元気です。レイヴは図書館に避難。詩乃は現地到着した瞬間、リタイアしました。
ルクティ先生? きっとその辺で溶けています。

以下は、やり取り部分だけ。


「イクスは暑くないのか?」
「心頭滅却すれば火もまた涼し」
 と答えた瞬間、イクスは隙を作ったことに気付いて身構えた。
 案の定、二人は跳ねる勢いで起き上がった。
「よーし、火を起こせ」
「アイサー」
「やめてください」
 日頃は意見が合わないくせに、人の嫌がることをするときだけ結託するのだから困ったものだ。
「半分冗談ですよ。痩せ我慢は死に至りますからね」
「半分、本気かよ!?」
 ロアンが悲鳴を上げると、再び床に引っ繰り返った。
「自分の世界や院に閉じ籠っていては味わえない空気を、楽しもうと思っているだけだよ」
「それ、帰ったら詩乃に言えよ」
 よほど悔しかったのか、フォウルが恨めしそうに呟いた。


詩乃がいて、イクスの受け答えに割と余裕があって、なんだか全体に楽しそうなので、たぶん長編終了後の時間軸ではないかと思います。