チャールズ・ディケンズ著 中村能三訳「オリバー・ツイスト」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
救貧院で育った孤児オリバーは、ロンドンに出てきたところを、スリの元締めフェイギンに招かれ、何も知らぬまま悪事に加担させられそうになる。泥棒に入った家で撃たれたオリバーは、その家の貴婦人ローズの同情を受け、善良な教育を受けることになるが、フェイギン等はオリバーを取り返そうと画策する。やがて、オリバーはある貴族の庶子で、フェイギンは遺産を渡すまいとする異母兄の指示で動いていたこと、そしてローズが伯母であったことが分かり、以後二人は幸せに暮らす。
タイトルロールである「オリバー・ツイストの物語」を読むつもりでいたので、最初は歪な構成だと思いましたが、読み終わって考えてみると、この話は「オリバー・ツイストを巡る物語」なのですね。オリバー自身はほとんどなにもしておらず、この救済院生まれの孤児を巡って、犯罪者たちや善なる人々がどんな行動をとるかを描いているのだと思います。
そういう解釈ができたので、登場人物の善悪がハッキリしていることは気になりませんでした。
上巻では、オリバーの扱われかたが悲惨過ぎて頭に来るので、途中何度も中断しました。
それでいて、全体を通すと非常に御都合主義な作品なんですね。
しかし当時のロンドンにおける暮らしや、犯罪者チームの心理などは非常に生き生きと描かれています。特にナンシーの描きかたと救いのない結末は凄いと思いました。
訳は少々難ありで、古さを感じました。ディケンズの皮肉の利いた言い回しが、直訳だとチグハグな印象になっていたのが残念です。