大崎梢著「平台がおまちかね」
出版社の新人営業マン・井辻の視点で、主に書店を巡る日々の活動を描いた日常ミステリ短編集。
本好きでも版元と関わらない人間からすると、まったく身近でない職業かと思いきや、営業という職はどの業種でも生態が変わりないものなんだなと思いました。
ちなみに、書店員を主役にした日常ミステリ短編集「配達あかずきん」の作者ですね。
井辻の営業先に「配達あかずきん」の舞台である成風堂が登場するのではと思ったけれど、そこまで直接的な関わりはなく、でも両方読んでいる読者はニヤリとする要素がありました。
主人公・井辻は、設定的に一見ワトソン役のようでいて、探偵役も務める一人二役。そのため、他の人物の存在感は薄めですが、準レギュラーである他社営業マンたちは、戯画チックなキャラクターで色濃く印象に残りました。
謎自体は、そこまで謎めいていないことを深く悩んでいたり、どうしてその発想ができたのかヒントが分からない謎解きがあったり、ちょっと不満が残りましたが、本への愛に溢れていて、全体的にリラックスして読めます。
特に良かったのは5話目の「ときめきのポップスター」。
「ポップスターコンテスト」と銘打ち、版元の営業マンたちに他社本を推薦させるフェアが行われるのですが、ここでポップ付きで紹介される10作が実在の本なのです。
次に読む本候補が一気に拡充された!と嬉しくなりました。