- 分類読書感想
藤野恵美著「わたしの恋人」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
両親に愛されて育った素直な高校生・龍樹が、保健室で眠っていた森せつなに一目惚れした。不仲な両親を見て恋愛はしないと決めていたせつなだったが、やがて龍樹の率直さに惹かれ2人は結ばれる。価値観の違いから喧嘩も経験し、完全には理解し合えない自分たちを自覚するが、互いに寄り添う気持ちを持つことで愛情を育てて行く。
非常にサクサクとテンポ良く読める爽やかな作品でした。
高校生の恋愛小説ではあるのですが、2人の家庭環境が重要な要素を担っているため、家族の形も描かれています。
せつなの家庭はかなり重いですし、問題解決はしていないのですが、彼女が作中で親は親、自分は自分と割り切れるようになったので、あまり心配はせずに読了できました。
そして物語の半分くらいは、付き合い始めてから、お互いの関係を深めていく2人の描写に割かれているのが素敵です。
頑なな雰囲気があったせつなが、意外と簡単に龍樹を好きになったことを認めるので若干拍子抜けしましたが、龍樹が本当に良い奴なので、それも当然か、と思えます。
非常にピュアで真面目な2人で、応援したくなります。そもそも学校で孤立していたせつなは苛められていても奇怪しくないのに、恋人ができて少し注目を集める程度で、何も学内のトラブルが起きない辺り、全体的に優しい世界でした。
解説は瀧井朝世。良い解説でした。また、姉妹編「ぼくの嘘」の紹介もされていて、この解説を読むと龍樹の親友・笹川君が主人公だという「ぼくの嘘」も読みたくなります。
私の勝手な想像では、笹川君もせつなが好きだったと思います。でなければ彼女が読んでいた本を知っている筈がないし、龍樹に気を回すのも、勿論友情はあるけれど、諦めるためなのでないかと感じたのでした。
……この想像がどこまで当たっているか、答え合わせは次回。