• 2016年07月26日登録記事

谷瑞恵著「思い出のとき修理します」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
恋人と別れ仕事も辞めた明里は、20年前の夏休みに一度だけ預けられた祖父母の美容室を借りて暮らし始めた。ひょんなことから、商店街の人々の苦い思い出を知ることになるが、それらは誤解やすれ違いがあっただけで、本当は温かく優しい出来事であった。やがて、明里自身が抱いていた祖父母にまつわる苦い記憶も懐かしい思い出に昇華され、美容師を目指した自身を肯定できるようになる。

5つの短編から成る連作。
日常ミステリとしては、全体的にややファンタジックな面が多く、読者に推理させる気はないと感じます。でも、個々のオチには一応理屈がついています。
そもそも、物語の主軸は明里と時計屋さんの過去と恋愛模様だと感じたので、そちらを楽しみました。二人とも三十代ということで、比較的落ち着いているのと、時計屋さんが好意を隠したりせず、明里も決して鈍感でないのは好感を持てました。明里の精神的な弱さには少しイライラさせられましたが、自分探しモノの主人公としては仕方ないかな。

無意識の内に人を勝手な名前で呼ぶ明里ですが、「時計屋さん」という呼称は、本人のキャラクターの温かみも伝わってくる良い呼称だと思います。
太一のキャラクターは、大学生としては現実味がなかったです。もっと子供なつもりで読みました。しかしトラブルメーカーというほど面倒を起こすこともなく、その点は意外でした。

悪意のある人は一切登場しない、全体的に優しい世界です。また、寂れた商店街という舞台設定ながら、浮世離れした雰囲気が漂っていて、どちらかというと寂しさよりも温かい余韻のあるお話でした。