• 2016年09月登録記事

パット・マガー著 中野圭ニ訳「被害者を捜せ!」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
海兵隊員のピートは、僚友が受け取った荷物の詰め物になっていた新聞で、入隊前に働いていた「家事改善協会」の代表が、役員を殺害して捕まったことを知る。しかし肝心の被害者名は記事が千切れてわからない。隊員たちはピートから家善協の十人の役員の人となりや仕事内容、出来事を聞き、誰が殺されたのかを当てる賭けを始める。

犯人と殺害方法は分かっているのに、殺害された相手がわからない、被害者を探すミステリー。
……と聞いた時点で「え!?」と惹き付けられました。正直、発想の勝利としか言いようがない作品です。

ピートの話は、家事改善協会立ち上げから四年間の間、役員たちの間でどんな揉め事があったか、時系列で事細かに語られ、隊員たちの賭けと推理は最後にまとまっています。
物語として読みつつも、この中の誰かが殺されたはず、と想像させられて、家善協のゴタゴタがより面白く迫ってくる気がしました。
結末自体は少し拍子抜けというか、結局普通の推理もので終わった気がします。でも、「犯人以外のものを推理するミステリー」の先駆者として、特筆すべき作品なのは間違いないでしょう。
(本作のオリジナル版発行は1946年)

役員たちは、ピートがいう通り“誰が犠牲者だとしてもたいして驚”くに値しない曲者揃い。でも非常に「こういう人、いるな!」と思わせる人物造形です。いや、自分自身の中に似た要素を見出だすところもあり、「こういう振る舞いは相手に不快感を抱かせるから気を付けよう」と我が身を正す気持ちにもさせられました。

連続して、人格破綻者が登場する下記2作品を読んだのですが、感想は真逆になりました。

西村賢太著「小銭をかぞえる」

「焼却炉行き赤ん坊」「小銭をかぞえる」の中編私小説2作。
主人公の性格の悪さにイライラするのに、先へ先へと読みたくなる作品でした。男も女も碌な人間でないけれど、確かに存在するリアルさを感じるのは、自己愛で言い訳することなく、真っ正面からクズっぷりを曝け出しているせいでしょう。
文章力が高い上、非常に熱量があるので、まったく理解できない主人公ながら、嫌悪しつつもその感情に飲み込まれていくのです。
下衆を描いた私小説なのに、極めて面白いという、初めての感想を抱きました。

町田康氏の解説は、「自宅の本棚を書店の一角に再現する、という企画」に基づいて物を書くという行為と西村作品の分析という内容でしたが、企画自体に対する話の部分が面白くて、興味が湧きました。

ねじめ正一著「長嶋少年」

長嶋茂雄を崇拝する野球少年の物語。
主人公が短絡的なのは、子供だからという理由で納得できます。しかしその母親が、母子家庭なのに碌に働かず姉に寄生しつつ、育児放棄しているくせに、子供が怪我をすると相手を強請るという人間で、あまりに不愉快で、読んでいて何度か投げ出したくなりました。
少年の心の機微の描写は秀逸で、大きな事件はなくても毎日必死で冒険に満ちた日常には惹き込まれました。

解説は又吉直樹。素直で気持ちのいい、好感の持てる文章で、本作で抱いた嫌悪感が少し和らぎました。

スーザン・イーリア・マクニール著 圷香織訳「チャーチル閣下の秘書」

【あらすじ】
第二次世界大戦下、数学者のマギーは首相のタイピストに採用され、首相官邸に通うようになる。ある日、交通事故で亡くなった筈の父親が生きていることを知ったマギーは、休暇に父を捜し始め、ブレッチリー・パークに辿り着く。だが同日、マギーに変装したIRAの工作員が首相官邸に侵入していた——

当初、思わせ振りな展開がしばらく続き、1/3くらい読み進めて「父親が生きているらしい」と分かってからようやく物語が動き出した感じがしました。
それでも、父親探しだけに没頭するのでなく、仕事や友人達との付き合いがまず優先されるので、いつになったら話が進むんだ、とヤキモキしました。でも、最後まで読むと、この構成に納得できた気がします。
お話は予想外の展開に転がって行くので面白かったのですが、テロとの戦いがメインで、死傷者も結構出るだけに、痛快といってしまっていいか悩みます。
表紙からは、もっと軽い作風に見えたので、ややチグハグ感もありました。

ロンドン空爆など、第二次大戦下のイギリスの状況が描写されています。
首相官邸(ナンバーテン)の在り方は、さすがに取材に基づいているので臨場感がありますし、この時代、ナチスとIRA(アイルランド共和軍)の二勢力が繋がっていたとは知らず、勉強にもなりました。
そして国際問題を扱いながらも、配給食材の中からでも記念日にはごちそうを作ったり、おしゃれに気を配ったりする女性ならではの在り方がユニークでした。

キャラクターは多種多様ですが、まず光っているのがアメリカ育ちの主人公マギー。
自分なら秘書官が勤まると自負していて、タイピストなんてつまらない仕事を宛てがわれることに怒っている才気煥発な女性。その設定を裏付けるように、世間が男性社会であることは理解していて、状況に応じた振る舞いができるし、混乱状態に陥っても喚き立てるわけでなく、打開策を練っていくのが格好いいです。特に、秘書官陣との関係はもっとロマンス小説風に展開すると思っていたので、意外でした。
善し悪しはあれど友人は多いし、男性優位論者だと思われた上司が実はそうでもなかったり、環境は恵まれています。展開に御都合主義な部分もあります。でもマギーを応援しているとそんな細かなことは気にならず読めます。
その他、短気で偏屈だけれど信念に基づいて邁進するチャーチル首相も魅力的でした。

シリーズ化されているので、先も少し気になるかな。

ちなみに、翻訳者の姓が読めなかったのですが、奥付に「あくつ」とフリガナがついていたことをメモしておきます。

PS4「討鬼伝2」体験版2種を遊びました。
https://www.gamecity.ne.jp/toukiden/toukiden2/

討鬼伝2

「討鬼伝2体験版」(配信終了済み)と「討鬼伝2引き継ぎ体験版」の両方をプレイしましたが、マップとストーリーはほぼ被っていますので、今からであれば引き継ぎ体験版を遊ぶ方が良いと思います。
ただし、御役目所で受けられる任務は、初期体験版の方が多いようです。

まず、アバターの設定がPSO並に細かくて驚きました。

アバター設定

でも、鼻のパターン等、差がほとんど分からないのに数が多い要素もありました。一通りチェックするだけでも大変で、面倒にも感じます。
パーツがあれば良いというものでもないのが、難しいところですね。

本作のジャンル「オープンワールド狩りゲー」とはどういうモノか、不思議に思っていたのですが、任務を選んで戦闘するだけでなく、走り回れる壮大なマップがある狩りゲーでした。
ストーリーはオープンワールドで進行するので、任務の存在を忘れがち。でも、鬼退治で手に入る素材収集が欲しいときに任務を選び、基本的にはワールド探索で進むという棲み分けは、世界観に没頭できて良いと思います。
また、単発NPCが討伐しているところに通りかかる「共同作戦」等があって、世界が息づいている感があるのも面白いです。

マホロバ

物語は、テンションの上がるチュートリアルから始まり、10年後の未来へ時空転移という、意外性のある展開。
全体的にキャラクターが良いので、掛け合いを楽しんでいるうちに、お話が進んでいきそうです。

PC同士だけでなく、共闘できるNPCが充実しているのは討鬼伝の良いところ。
カラクリ人形の時継がお気に入りです。ちっこい可愛い姿で男前というところが、私の急所を突いています。逆に生身の人間のままだったら、あまり興味ないタイプかもしれません。
それから、引き継ぎ体験版から登場の八雲と刀也も、どちらか選択式っぽい二択も含めて気になるところです。
まあ、八雲は一目見た瞬間から意識せざるを得なかったですね。

八雲

ベっ、ベルゼーヴァ様! どう見ても、Zill O'llのディンガル帝国宰相ベルゼーヴァ様じゃないですか!
同じ会社だからってカメオ出演? 人類の革新は諦めて、鬼退治してるんですか? と、一人で盛り上がってしまいました。

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花とゆめCOMICS「かげきしょうじょ!!」2巻

※過去巻の感想は、タグからご覧ください。

愛ちゃんが相変わらずのドヤ顔で凄く可愛かったですが、今回は夏休みということでさららの過去話がメイン。学校生活がまったくなかったので残念でした。
また、過去も明かされたようでいて、結局ぼやされているのですよね。
楽屋で噂されていましたが、さらさは煌三郎お兄さんの娘ではないと私は思います。
過去に「さらさのような娘が欲しかった」発言があったから、煌三郎とさらさは直接の血の繋がりがない筈。更に今回の「歌歐さんの血筋に弱い」からして、歌歐大先生の血の繋がりなんだと思っています。もう一段階、バラしが残ってそうですね。
暁也との関係も、思ったより冷めてる感じで、不思議な人間関係だなと思います。

スタンドだったりFF6のゴゴだったり、スケルトンフィギュアを「不良品じゃないの」とか、相変わらず地味にネタが盛り込まれているのは笑いました。実はマイナーなネタを持って来ないので、理解して楽しめるのが良いのです。

ちなみに本作は、コミックスは本編のみで番外編などを収録していないようですが、その内単行本でも読めるようにして欲しいなぁと願っています。本誌購入者のための特典だ、と言われてしまえばそれまでですが、雑誌だと保管も難しいですし……。