• 2012年03月05日登録記事

2009年にエイプリルフール限定公開したBASTARD!!サイトより再録。
PS版ゲーム「虚ろなる神々の器」2章ネタバレ有り。


 生命を投げ打つことは、彼の信念に反しているはずだ。
 人為を良く知る間柄ではないが、少なくとも共に行動していた頃の彼は、生きることに貪欲で、その執着によって二度見捨てられたヨルグすら感嘆するほどだった。
 そのマカパインが、今、D・Sに己の首を差し出している。
 彼を変えたのは、蘇った記憶の一部だろうか、とヨルグは考える。
 ヨルグ自身も、ア=イアン=メイデの侍としての誇りを思い出した今は、あの時と異なる信念を持っている。
 ――友の為ならば、命を賭けても良い。例え結果が死であったとしても、友の道の礎と成るならば悔いはない。
 それが、侍ヨルグの取り戻した信念であり、既に一度、命を以て道を拓いたことの理由であった。
 だが、彼が命を賭けるのはなんの為だろう。
 マカパインは孤高である。
 ならば、戦いの果てに誇りある死を望むのは、矜持だろうか。D・Sの打倒を誓った妖縛士の誇りを守るために、彼は死のうと言うのか。
「気障なコタァいい! 仲間としてついてこい!」
 結局、妖縛士に死が与えられることはなかった。仲間たちの手荒い歓迎を経て、マカパインは再びヨルグと肩を並べる。
 怜悧な横顔をどこか新鮮な気持ちで見下ろしていると、視線に気付いたマカパインが左目だけでヨルグを見上げた。口と異なり率直な彼の眼差しが問うのに促され、問う。
「誇りに命を掛けたわけでない」
 彼は否定してこう答えた。
「これは私のけじめだ」
 けじめと彼が言ったものをヨルグが理解するならば、それはやはり誇りに他ならない。だがそれは、侍たちが侍であることに誇りを抱くのと異なり、妖縛士としてでないマカパイン個人の誇りであるのかも知れなかった。


最初の2行で書きたいことが終わってるお話。
ヨルグとマカパインについては、2012年3月1日記事に載せたSSと本SSの2編を書いたのですが、今回再録に当たって読み返してみたら、2編共マカパインの「命大事に」精神に対する話でした。