• 2012年03月26日登録記事

2009年にエイプリルフール限定公開したBASTARD!!サイトより再録。
魔戦将軍同士で考えるマカパインのこと。


 あれは卑怯な男だ、とイングヴェイは思う。
 戦う以前に罠を張り、必ず自分の土俵で勝負を挑む。そのやり口を賞賛する者もいたが、騎士であるイングヴェイからすれば、栄えある魔戦将軍の一員とは思えぬ手口である。
 何よりイングヴェイが困惑するのは、彼から向けられる敵愾心である。
「私のことが不快ならば、正面から挑んでくれば良い」
 そうすれば逃げ隠れせず受けて立つと言うのに、実際にはマカパインの方が逃げているのだ。
 ボル・ギル・ボルが頷いた。
「あの御人は決闘するタイプではござらん。もし決闘すると言い出されたら、指定の場所に向かう道を良く調べる必要がござるな」
 敵を鎧ごと両断する鋭利な糸を仕掛けるのは、あの妖縛士の常套手段だ。
 その時、窓辺に腰掛けた吟遊詩人の爪弾いていた竪琴の音が止み、暫しの逡巡の後、音の代わりに言葉を紡いだ。
「貴公等はマカパインを好まぬようだが、私は少し彼に共感するところがあるのだ」
 魔戦将軍の中で最も清浄な吟遊詩人がそう言い出した真意が判らず、イングヴェイは顔を顰めた。
 ボルもまた同様に首を捻り、問いかける。
「シェラ殿が、でござるか?」
 詩人は深く頷くのに併せ、長い髪が揺れた。
「貴公等のように無二の強さや技術を持つ身でないのでな。卑怯な真似でもせねば、カル様のお役に立てないのではないか、とは私も考えるのだ」
「だが貴公はそうはしないだろう」
 たとえ同じ事を考えたとしても、実行する者としない者では天と地の差がある。イングヴェイはそう思い直ぐに否定したが、シェラもまたたじろぐ事なく答えた。
「私は楽師だ」
 その言葉は決して強いものでない。しかし二人に気付かせるには充分だった。
「戦いで貴公等の働きに劣るとしても、私は私のやり方でカル様のお役に立てる」
 マカパインは違う。イングヴェイやラン、ジオンと言った歴戦の強者と共に、戦場で成果を上げねばならない。
 その時、敢えて汚名を被ることも、選択の一つである。
 それを考えず悪し様に評したことが悔やまれるのだろう、ボルの両目からは滂沱の涙が流れていた。
 シェラは不意に苦笑して嗜めた。
「勿論、好意的に捉え過ぎているのかも知れないぞ」
 だが最早イングヴェイも、マカパインをただ非難する事は出来なかった。
 主君の理想を実現する為に己が身のすべてを捧げたのは、イングヴェイ自身でもあった。


マカパインは小狡く卑怯でナンボだと思っているので、敢えて乙女視点を用いて好意に解釈すると、むず痒くなります。
シェラは乙女、インギーとボルは騙され易い、ということで。
これにてバスタード再録打ち止めです。