• 2016年01月28日登録記事

稲葉稔著「人生胸算用」

【あらすじ】
士官の道がないと悟った郷士の息子・辰馬は、「大名に頭を下げさせる商人になる」という野望を持って、江戸の穀物問屋の奉公人になる。一所懸命働きつつ、奉公先の娘・お民と共に、番頭に掛けられた嫌疑を晴らしたり、店への嫌がらせの犯人を突き止めるなど活躍する。

たまには新刊も読みます。

もしかすると、シリーズ化予定があるのかな、と思わされる作品でした。
というのも、主人公・辰馬(後に辰兵衛に改名)は「大名に頭を下げさせる商人になる」と野望を掲げているものの、残念ながら本書ではその目標に到達しないのです。

辰馬は喧嘩っ早い性格だと語られる割に、作中では慎重な行動が多いです。短気で大事を起こすのかと思っていたのに、そういった事件はありません。また、父親には江戸行きを剣術修行と騙っていたことがバレても、これと言って大事にはなりません。
読者が予想できる範囲内で話が展開するので、淡々とした地味な話ではあります。
また、商売の心得は頻繁に語られるけれど、実際の具体的な苦労話や駆け引きはほとんど描かれていないので、商売話としては物足りない気持ちになります。
でも、私はこのくらい平凡なお話が結構好きだと思いました。

本気の悪人はいない、清々しい作品でした。特に、奉公先である石和屋の主人・佐兵衛がいい人で、こういう主人には誠心誠意奉公したいと感じます。