• 2016年01月20日登録記事

桂美人著「禅は急げ! 落護寺・雲水相談室事件簿」

【あらすじ】
お布施稼ぎを目的とする「お悩み相談室」を担当する羽目になった新米の雲水・真実は、嫌々ながら、相談室を訪れる人々や仲間の雲水たちの絡まった気持ちを解くため、東奔西走することになる。

タイトルから、禅寺を舞台にした日常ミステリと踏んでいたのですが、どちらかというと、禅寺の個性的過ぎる仲間達とのやりとりを楽しませるキャラクター小説でした。
真実以外のレギュラー陣は、なんでも完璧にこなす俺様人間、霊力がある美少年、オネエの先輩と、濃いラインナップ。全体的に美男美女揃いでホモ多しと、かなり漫画風です。
いくら落伍者の集まる寺という設定でも、俗っぽ過ぎる気がして最初は戸惑ったのですが、パターンの入った「ドタバタコメディの禅寺版」と割り切ればサクサク読めました。

事件や推理はあるのですが、日常ミステリと感じなかった理由は、まず主人公である真実に積極性がないためです。相談を受けても、娑婆と関わりたくないので、表面的なことを言って当たり障りなくやり過ごそうとするくらい。よって、悟りの精神が語られるわけでもありません。もっとも、この点は善意の押し付けがましくないという意味で、ある程度良かった面もあると思います。
とにかく、探偵役としてもワトソン役としても中途半端に感じます。
謎を解いた後も、なんだか都合が良過ぎて腑に落ちない部分があって、あまりスッキリしませんでした。特に「白昼のチッタ」は、理由はともあれ窃盗犯を逃がして、その行為を肯定するというオチに首を傾げました。

「善は急げ」を駄洒落したタイトルや、草食ならぬ「僧職系男子」なんて宣伝は悪ノリ感もありましたが、禅寺の特殊な生活は本文中でキチンと描かれており、禅問答などもあるので、舞台設定は大いに活かされています。
なお、専門用語は巻末にまとめて解説されていますが、読了後に気付きました。そのため、読んでいる最中は、もう少し細かい説明がないと不親切だと思っていました。