- 分類読書感想
花村萬月著「幸荘物語」
私は、読んだ本のあらすじを自分の解釈でまとめていますが、本作に対しては、久し振りに、あらすじを書くことを断念しました。
極貧の芸術家たちと「幸荘」で暮らす小説家志望の僕・吉岡が、劣等感であった童貞を捨てて以降、一目惚れした美女と交際が始まり、応募作は新人賞の最終候補作に残る。賞は逃したものの、次作で成功する強いビジョンを手に入れたーーという出来事の羅列でまとめることは可能だったのですが、それが本作のあらすじだったのか、と考えると少し引っ掛かるものがあったのです。
オチからすると、一人称が「僕」だった小説家志望の男が、一人称が「俺」のアイデンティティに変わるまでを描いていたのか、とも思います。しかし、男性にとって「僕」と「俺」の一人称の違いは何か、本書内では答えが見出せず、その解釈も納得できませんでした。まだまだですね。
金のない若者の衝動といえば、セックスと少々の暴力ということで、性描写が多いです。そのため私の好みではありませんでしたが、男性の「自意識」がよく学べる教材として考えれば、面白かったです。
また、主な舞台である吉祥寺は、昔よく通っていた街なので、描写に懐かしめました。