• 2016年03月登録記事

中沢けい著「楽隊のうさぎ」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
中学校に入学した克久は、ブラスバンド部でパーカッションを担当することになった。苛めに遭い心を閉ざしていた克久だったが、次第に音楽の面白さに夢中になり、その瞬間しか作り上げられない一曲を生み出す一体感を経て、1人の自分という存在を捉えられるようになる。

これまで読んだ吹奏楽+部活小説は「スウィングガールズ」「吹部!」と勢いのある作品が多かった印象ですが、本作は理論的。
もっと突き詰めて言うと、これは本当に「小説」なのだろうか? と腑に落ちないまま読み終わりました。お話自体は粗筋の通りなのですが、作品のテーマ性は粗筋とかみ合ってないような気がしたのです。
そう感じた理由は、解説の下記の部分を読んで、少し理解できたように思います。

この一節は主人公克久少年の視点でも、母親の視点でもない、いわば作者が直接顔を出して読者に_語りかけているが、このスタイルを見ておやと思う読者もあるに違いない。(中略)彼女の他の仕事を少しでも知る読者から見れば、この『楽隊のうさぎ』は、文学論的に言えば明らかに一歩退いた手法だと思われるはずだ。

個人的には、まるで解説本やビジネス書を読んでいるような、淡々とした語り口だと感じてしまいましたが、この手法によって、作者は自由に語ることができたのかもしれません。
私の印象としては、色々なエピソードが「出来事」として羅列されていて、起伏がないと思いました。特に、いじめ問題や家族関係といった様々な要素が盛り込まれており、その描写に尺を割いているせいで、肝心の「音楽」を掴んで成長する部分がいつの間にか流されていました。
時間の流れ方も一定でなく、場面転換が唐突で、短期間のことを細かに描写したと思ったら、大きな変化があった筈の時間軸に関して描写が抜け落ちていたりします。人間の意識としては、ある時期の記憶が希薄だということは間々ありますし、克久の心理も母・百合子の心理も非常にリアルなのですが、小説としては少し戸惑わされました。

演奏や練習に関しては、非常に真面目に書かれているので、恐らくブラバン経験者は頷きつつ楽しく読めるのだろうと思います。
特に、最後の全国大会は、「シバの女王ベルキス」の第二楽章〜第四楽章を聞きながら読みたいと思いました。演奏に対する高揚感もあって、このシーンは純粋に音楽小説として惹き込まれます。
また、タイトルに登場する「うさぎ」という小道具によって、克久の本音や、それと逆に本心なのかもよく分からない持て余してしまう気持ちなどが表されていて感心しました。

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池袋のトルコパン屋「デギルメンベーカリー」のパンを頂きました。
https://www.facebook.com/degirmen.bakery

左上のやや平たいパンが、ミニピデ
ロールパン風の柔らかさともバゲットの堅さとも違う食感。もちもち……とも違うけれど、生地はしっかりしている感じで、よく噛む必要があるのですが、それによってパンの旨味を感じると思いました。
表面に白ゴマが付いているため、トーストして温めてから食べると、ゴマの香りが口中に広がります。やや塩味は付いていますが、おかずと一緒に食べる主食パン向き。
なお、このパンは結構大きいですが、「ミニ」というからには、恐らく「ピデ」自体はもっと大きい物なんでしょうね。

右上の甘食風のパンが、サムクラビイェシ
真ん中にくるみが埋まっている表面は、叩くと硬いのですが、重さはありません。食べるとポロポロ崩れる食感と共に、柑橘の爽やかな味わいで後味がスッキリ。
菓子パンという印象ですが、今回頂いた中では一番私の好みだな、と思いました。

手前のプレッツェル風が、トルコクッキー
生地に強い塩味がありました。食感は明らかに「パン」ではないですが、我々が考える類の「クッキー」でもなく、説明が難しい食べ物。
個人的には、パサパサして粉っぽいのに味が濃くて、苦手に感じました。食べ慣れれば、これはこれで味わいがあって美味しいかもしれません。

お店は、元々小さな店舗なのにイートインコーナーがあるので、かなり手狭。
パンはカウンター横の棚に並んでいる形なので、店の外から一瞥した段階では、売り物が少ないように見えました。しかしよく見ると種類は抱負で、どれも試してみたくて目移りしました。
価格帯も良心的な設定です。
駅から少し歩くのが難点ですが、機会があればまた他のパンを試してみたいなと思いました。

南陀楼綾繁著「小説検定」

小説ないし小説家にまつわる、8つのテーマの問題集。
義務教育を受けた日本人ならほぼ答えられるだろう問題から、知らなくても推理して解ける問題もあれば、「知るか!」と言いたくなるような奇問まで、各種揃っています。
例として、「食べ物」の上級問題から1つ引用。

問2
次に挙げる料理名が入ったタイトルのうち、小説として存在しないものは?
[A]やきそば三国志 [B]かつどん協議会
[C]冷やし中華太平記[D]支那そば館の謎

私は一冊も知らなかったけれど、回答の解説を読んでいたら、読んでみたくなってきました。
問題自体は、正直どうということもないし、特に私は作家自身に興味がないタイプなので、作家にまつわる問題はピンと来ませんでした。しかし「こんな小説があるのか」という発見が多く、面白かったです。

縄田一男編「食欲文学傑作選 まんぷく長屋」

タイトルと、縄田一尾氏編集という点で、時代小説アンソロジーだと思ったら、7作品4作品は現代物でした。
でも、時代物の方が圧倒的に面白かった一方、現代物は私には合いませんでした。

収録作は下記の通り。

  • 池波正太郎著「看板」
    さすがに池波先生。アンソロジーテーマの「食」はさり気ないアクセントとして使われていて、それが却って引き立っていると思いました。
  • 筒井康隆著「人喰人種」
    この手のブラックユーモアは苦手なので評価不能。人喰いシーンは良い気がしませんでした。
  • 尾崎翠著「アップルパイの午後」
    戯曲形式という時点で読み難い上、言い回しが独特過ぎて面白さが分からなかった作品。
  • 山田風太郎著「慶長大食漢」
    家康の吝嗇と茶屋四郎次郎の美食の話。少々荒唐無稽でも、掴んで話さない話。この家康の性格は、私は結構頷かされます。
  • 伊藤礼著「狸を食べすぎて身体じゅう狸くさくなって困ったはなし」
    頭から最後まで、タイトル通りの話だったので、反応に困りました。
  • 火坂雅志著「羊羹合戦」
    太閤から拝領した紅羊羹より美味い羊羹を作るドラマ。非常に面白かったです。
  • 日影丈吉著「王とのつきあい」
    読み応えはあったけれど、グロテスクな内容なので、食事の前に読んだのは大失敗でした。

1編ずつの感想とは別に、「食欲文学」と銘打っているのに半分くらいは食欲が減退するお話だったのが残念でした。食欲を刺激するような、美味しいお話が読みたかったんだけれどなぁ。