• 2016年06月08日登録記事

柴崎友香著「わたしがいなかった街で」

出来事は起きるけれど、物語はない作品でした。よって、あらすじは省略させていただきます。

祖父が原爆投下の直前まで広島にいたという事実や、好んで見ている戦争ドキュメンタリーを通して、主人公・砂羽が様々に思考するお話。
読了後、自分に繋がる人々や暮らしている土地の過去を考えさせられました。
こういう考え方もあるのか、と気付きが与えられ、視野が広がる感じもします。
しかし、砂羽自身が向き合っているものは現実でなく、戦争をキーとした仮定の世界なので、結局彼女はなにがしたいのか見えてきません。印象が全体的にふわふわしていて、腑に落ちることがありませんでした。
中盤以降、葛井夏の視点に切り替わると、こちらは地に足の着いた女性なので好感を覚えました。しかし、それまでずっと主人公視点で綴っていたお話を、わざわざ放り出して辿り着いたオチは物足りなかったです。

同時収録の短編「ここで、ここで」も、電車内での会話までは興味深く読めたのですが、その後はやはり出来事と思考の羅列で、お話としてまとまっていないように感じました。
解説を読んで、作者の意図等は色々考えさせられましたが、私には合わない作風でした。