• 2016年06月16日登録記事

冲方丁著「ストーム・ブリング・ワールド」(MF文庫版)

【あらすじ(1巻最後までのネタバレ有り)】
悪しき“黒のセプター”に国を滅ぼされ、対抗する秘密結社の一員となったリェロンは、指導者の予知に従い、次の戦いの鍵を握るという少女アーティを守るため、カルドの神殿がある街へ潜入する。学生として出逢い、次第に交流を深める二人。しかし街中で仕掛けられた戦いに応戦している内に、リェロンの方が黒のセプターと誤解されてしまった。騎士団の手で捕まったリェロンはアーティの目の前で処刑されてしまうーー

ゲーム「カルドセプト」の世界観を基にした2003年出版小説のリライト版。
理想的なゲーム・ノベライズですね。
ゲームを知っていても面白いし、直接「カルドセプト」自体は知らなくても、ファンタジー世界のボーイミーツガール物が好きな人なら、面白いと思います。
長い物語の1エピソードという感じのまとまりですし、アーティの旅立ちで終わるので、続きも読みたくなります。

同盟の使いかただとか、システム面が非常に巧く世界観に組み込まれていて、なるほどと膝を打ちました。
特に、先日体験版を遊んだ「カルドセプト リボルト」では、セプター同士が仮想空間で戦うという設定になっていて非常に違和感があったのですが、本作のセプター戦は、現実世界の地形を使って戦う形で表現されていて、その点が嬉しかったです。
そういう戦いであるが故に、セプターの戦いに巻き込まれる一般人の存在だとか、誰が敵セプターなのかという謎解きなど、色々に発展できたのだと思います。

ただし序盤は、リェロンたちが兆候には気付いていながら、よく考えず敵の罠にハマっていくので、少し苛つきました。必要な展開だということも分かるけれど、愚かな行動を取られると、キャラクターの魅力が薄れる気がします。また、リェロンの会話中に突然カルドを発動するというやり方も、性格付けとして面白いけれど、実際にそれが有効打になるシーンがなかったので、頭のいいやり方には見えなかったです。

なお、冲方氏が本作を書くことになったわけとして、同居していた柳川氏(作曲家)の存在が1巻あとがきで説明されています。
柳川氏の名前で、古い記憶が呼び起こされました。
……冲方丁氏って、「ドラゴンクエストⅡ 任侠鉄砲玉伝説」の作者だったのか!
氏の小説は一度も読んだことがないと思っていたのに、意外なところで拝読してました(笑)。