• 2015年08月01日登録記事

万城目学「悟浄出立」

沙悟浄が主役のお話と思ってウキウキ読み始めたら、中学古典を脇役から語らせる短編集でした。
収録タイトルと、扱っているエピソードは下記の通り。

  • 悟浄出立(西遊記)
  • 趙雲西航(劉備の入蜀)
  • 虞姫寂静(垓下の戦い)
  • 法家孤憤(荊軻の始皇帝暗殺)
  • 父司馬遷(李陵の禍)

原典の知識がなく、分かり難い話もありました。
そういった意味では二次創作的、もっと言えばファンフィクション作品だと言えるかもしれません。

一本の読み物として面白かったのは「法家孤憤」。主人公は、荊軻と同じ読みの京科というしがない官吏。ほんの一瞬だけすれ違い、立場が変わった二人の男のありようが心に残りました。

悟浄出立」は、傍観者に徹する皮肉屋の悟浄が、悟空や八戒に影響を受けて変わるのが前向きで爽やか。ただ、中島敦の「悟浄歎異」の焼き直しという評もあるので、同作を読んでみないといけませんね。
趙雲西航」は、要約すると「五十歳になった趙雲が望郷の念を抱いた」というだけのファンフィクションですが、戦記物の一ページらしい雰囲気があったのと、趙雲が思う張飛や諸葛亮に対する印象だとかが面白かったです。

女性を描いた二作品は私はあまり好みではありませんでした。
虞姫寂静」で描かれる、虞とは会稽で娶り死んだ妻の名であり、咸陽で見出された虞美人は愛を受ける身代わりだった、という設定はなるほどと思ったけれど、虞美人を主人公に据えた作品は他でも読んでいるから、さほど目新しく感じなかったため。
父司馬遷」は、ページ数の割にこれといった展開がないので途中で飽きてしまいました。
これは私に司馬遷と前漢時代に関する知識が不足しているせいだと思いますので、もう少し背景を勉強しないといけません。
でも、エンターテイメントとしては、その1作だけで面白さが伝わって欲しいと思います。