• 2015年08月25日登録記事

海野弘著「緑の川の旅人 ー慶長茶湯秘聞ー」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
関ヶ原の戦いで茶人の父を失くした朱平は、織田有楽に拾われ有楽の茶を学ぶ。やがて父が関わっていた茶湯の秘密結社「緑の川」に触れ、茶を通してなぜ生別や身分によって人を分ける動きがあるのかを考え、誰もが平等な茶を作りたいと思うが、取り締まりを受け、次代へ望みを託す。

なぜ、単行本ではタイトルだった「慶長茶湯秘聞」という、なんとなく扱っているお話が分かる名称をサブタイトルに回し、よく分からないタイトルに変えたのだろう、と疑問に思いながら読みました。
読んでみると、確かに茶の湯をテーマとした話ではあるけれど、それ以上に、作中に登場する結社「緑の川」に作者の語りたいことが盛り込まれているのだなと分かりました。
思想的な会話が多いので、少し戸惑いましたが、茶の湯を使って政治介入しようとする利休、織部、有楽といった茶人たちと、市井の茶人たちの茶の席の描写が面白かったです。
特に「密室大阪城」で酷い人物として描かれた織田有楽斎がいい人物に描かれている点は、歴史物ならではの面白みを感じました。

この世に対する朱平の疑問は、今でも通用する疑問かも知れません。
作中で語られている通り、徳川時代は、身分制度を強めて諸々を制限することで人民を統治しやすくしたんだと思いますが、それが200年も続くと、日本人の根の部分がそうなったところもあるのでないかと感じます。