• 2015年08月05日登録記事

星新一著「城のなかの人」

時代小説5作を収録した中編集。
星新一といったら「SFショートショート」と思っていましたが、時代小説も書いているのですね。
淡々と俯瞰する文体や会話の軽妙なやりとり、物語の締めかたなどは、星新一らしさが溢れていると思いました。

表題作「城のなかの人」は、秀頼がいつまで経っても幼過ぎるように思いましたが、大阪城で果てるラストに悲壮感がないのが独特ですね。

春風のあげく」「すずしい夏」は舞台が江戸時代というのみで、後は創作のようです。
藩の財政を良く見せようと粉飾する「すずしい夏」は淡々と描かれる飢饉の様子が、悲惨なのに笑えるという悪辣な作品。オチも含めて全体的にヒヤっとさせられました。

面白かったのは「正雪と弟子」。
由比正雪の慶安の変がネタになっていますが、正雪は叛乱をする気はなく、浪人連中を口車に乗せただけだった、という「な、なんだってー!」な星作品らしい味付け。正雪の出任せ講義が面白くて秀逸でした。

はんぱもの維新」は、明治維新という血みどろの時代で、主人公たちも死んでしまうのに、どこかコミカル。
全体的に、星新一作品には温度と湿度がなく、そこが味わいなんだろうと思いました。