• 2016年04月03日登録記事

朽木祥著「オン・ザ・ライン」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
高校に入学した侃は、友人・貴之に誘われて庭球部に入る。テニス三昧の充実した日々を送っていたある日、侃を助けて貴之が轢かれる事故が起こる。自責する侃は、祖父の住む瀬戸内海・美能に引き蘢る。そこで子供達との触れ合いを通して自分を見つめ直し、貴之の叱咤を受けて学校に復帰した侃は、テニスを通して、絶対無二の一球=今を大切に生きることを思い出す。

テニスと高校生活を描いた瑞々しいスポーツ小説かと思いきや、半分進んだところで驚きの展開が待っていました。
読書感想文全国コンクール(2012年)の課題図書に設定されていたという事実も、なるほど……と思わされます。喜びと哀しみを共感することが必須の作品ですね。
また、第二章の各扉で引用されている作品は、私には分からないものもあって、どういった意図でそれが挿入されているのか、かなり考えさせられます。
例えば、2章扉の「侃の父親からの絵葉書」は「防空壕に逃れた人々」という要素から、美納にいる侃の状態を示しているのだろうと思いましたが、なぜカラス坊宛の絵葉書が長崎滋養軒なのかは謎のままです。

主人公・侃(かん)の人物像が、体育会系だけれど文学少年で、成績は別に良くないというのが、割とリアルな造形でまず面白いと思いました。逆に、彼が憧れる貴之や永井小百合はキャラクターとして羨ましい要素が詰まっているわけですが、そのくらいのケレン味は小説としての面白さになっていたと思います。