• 2016年04月21日登録記事

田辺聖子著「とりかえばや物語」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
権大納言の2人の子供は、男女が入れ違った性格のまま長じ、遂に姫君の春風は男として元服、若君の秋月は女として裳着を行った。栄達した春風は、ある日同僚の夏雲と男女の仲になり、妊娠してしまう。身を隠し、夏雲の保護下で子供を産んだ春風だが、男に囲われるのでなく思うままに生きたいと、子供を夏雲の下に捨て都へ帰る。男に戻った秋月と入れ替わり尚侍として宮中に入った春風は、やがて帝に見初められ、ただ一人の女御として寵愛を受ける。

「おちくぼ物語」(2016年4月18日記事)が面白かったので、引き続き田辺聖子訳の古典です。
お話自体は、少女時代に氷室冴子の小説、及び漫画版「ざ・ちぇんじ!」を読んでいるし、「マリア様がみてる」でも登場するため、既読のつもりでしたが、実は初読。
訳者による潤色が強かった「おちくぼ物語」と異なり、本書はあくまで原典の現代語訳という立場を守っていました。それでも、とても読み易いし、主人公の春風に寄り添って楽しく読めました。

男女のドロドロとした関係が多くて驚かされました。
秋月が尚侍として仕えている間に東宮を妊娠させる上、男に戻ると次々他の女性たちに手を出す色好みになってしまうのは、後味が悪い気もします。そんな浮気性の男たちですが、どこか仕方ないと思わせる愛嬌があるのは、平安貴族ゆえでしょうか。月日が経った後でも「あのひとはやっぱり、月へ帰ったのだ……。かぐや姫だったのだ」と想っている女々しさが、可哀想でもあり、笑えもして、なんだか嫌いになれませんでした。
「ざ・ちぇんじ!」は少女向けに巧く改変しているんだなと改めて感心もしましたが、春風が男の生活を止める理由付けは原典の方が納得できますし、産んだ子を捨ててまで自我を取り戻すという展開は、古典だからこそ描けるエピソードかなと思います。
そもそも、現代の新作だったら、春風と秋月は性同一性障害となって、元の性の生活に立ち返る展開にならないかも知れませんね。