• 2016年04月23日登録記事

室積光著「ドスコイ警備保障」

【あらすじ】
引退した力士の就職先問題を解消すべく、相撲協会理事長の肝入りで警備会社「ドスコイ警備保障」が立ち上がった。元力士の社員と、それぞれ事情で元の会社を退いた幼馴染み経営陣は、第二の人生を切り開くべく、会社での活動に打ち込んでいく。

「史上最強の内閣」の著者らしく、著名人のパロ満載で、トントン拍子に進んでいくエンターテイメント作品。
ガードマンとなる元力士たちは「気は優しくて力持ち」だし、経営陣は明け透けで根から善人揃い。一番生き生き動いているのは、力士でも幼馴染み組でもない松村だけれど(笑)。
悪人役としてはテレビ局のディレクターがいますが、それも単純に嫌な奴と断じられない馬鹿な面が描かれているので、あまり深刻にならず、純粋に設定や掛け合いを楽しむ小説だと想います。

敦子が大東山と結ばれたのには驚きました。
その辺の展開を、あえて描かず松村が伝聞で知るという構図にして、読者と一緒に驚かせたのは、手法としては有りだけれど、個人的に釈然としません。
私はずっと、松村がそう思っていたように、敦子は豪勇と結ばれると思って読んでいました。そう思うに足る描写があったからです。大東山にはそれがなかったので、相手が豪勇でない、という驚きを与えるために作者の意思で選ばれたように感じます。運命の恋だというなら、それを感じさせて欲しかったです。

全力で巫山戯ているけれど、中身は結構真面目です。

あんまり自分の考えにはこだわらない方がいいですよ。丸田さんがよく言うんです。こだわりを持つのは良くないことだって。ほら『こだわりの店』かなんか、こだわることがいいことみたいな風潮があるじゃないですか。それは間違いだって。こだわることは自分の狭い経験や考えの中にこもることだから、そこからいいものはできないって。

などの、要所で語られる価値観にはなるほどと思われされました。