• 2016年04月15日登録記事

佐藤正午著(伊藤ことこ、東根ユミ)「書くインタビュー1」

直接会って言葉を交わすインタビューではなく、メールを用いて、書いて質問し、書いて回答するという形式のインタビュー。ある意味、テーマの決まっている往復書簡集のようなものですね。

1巻を読み終えた時点での私の感想は、「変な本」というものです。
作家・佐藤正午の書く手法について、興味深く読める箇所もありましたし、書くことに対するストイックさは、ジャンルは違えどライターの端くれとして勉強にもなります。

しかし……この作家が嫌味っぽいのです。
私は、インタビューとは、質問者と回答者がお互いに協力して進むものだと思います。それなのに、相手の投げる質問にケチを付けて、答えなかったりして、感じが悪いです。
メールでの長期インタビューに答えることは、仕事として自分が請け負ったのだろうに、こんな非協力的では、インタビュアーたちが戸惑うのも当然です。文章は巧みですが、ときどき感情的に攻撃してくるし、そうなると巧みであるが故に余計キツく感じます。
とりあえず、「人と会うと不幸になる」と過去に発言しているだけあって、人間嫌いなのだろうという印象は強く受けました。

対するインタビュアーたちも、あまり共感できない人々です。
最初の聞き手を担当した伊藤ことこ嬢が、初っ端から「疲れませんか」という、微妙な質問を投げかけるところから本書は始まります(当然、作家からは非常に辛辣な返信をもらいます)。
最初に変化球を投げることで、面白い反応を引き出そうと狙った、その気持ちはなんとなく分かります。しかし、取材相手の性格を考慮していなかったことは問題ですし、結局仕事を投げ出してしまう有様なので、擁護のしようがありません。
代わりに聞き手を務めることになった東根ユミ嬢も、最初は真っ当に頑張っているのですが、途中から嫌がらせで「正午さん」呼びを始め、どうでも良い質問を連発するのには、正直呆れました。
のらりくらりと躱す回答ばかり返され、自分の書いた質問は駄目出しされる、というやり取りが頭に来るのは分かります。しかし、メールが出版されると分かっていて、こんな幼稚なことをするでしょうか。
でも最終的にそのまま押し通すのだから、「正午さん」みたいな面倒な人と付き合うには、彼女のやりかたが正解なのかもしれません。
結局、東根嬢は作者の秘書から「自分」が見えないと指摘されて、“件名:「私」”という身の上話を書いた長文メールを送って以来、先生との仲が回復します。実際問題、このメールは何でもない内容なのに、読み物として面白かったです。

……皆さまは、この2人のインタビュアーは、実在すると思われますか?
編集部が「小娘」で失敗した直後に、また「小娘」を起用するでしょうか。

作家の自作自演なら、なかなか面白いしよく出来ていると私は思います。が、それはネタばらしして初めて成立する面白さです。
本書が「インタビュードキュメンタリー」として発行されている以上、やはり作家は嫌な男で、インタビュアーは感じの悪い小娘でした。

なお、私は佐藤正午氏の本を読んだことがありません。インタビュー中に執筆・発行され、何度か引用されている「ダンスホール」「身の上話」等は、読んだ方がより面白いのではないかと思います。
しかし──

断っておきますが、これはあくまで東根さんのおっしゃる小説の「人称」に注目した場合の話で、そんなパイ構造だの何だのはどうでもいい、物語の筋さえ面白けりゃいい、『5』の津田伸一の性格、品行悪すぎ、大嫌いだ、みたいな読み方ももちろんありです。ありですが、そういう傾向の読者には、できるだけ僕の本には近寄らないで欲しい、なんなら手も触れないでほしいといつも念じています。
(P.68)

とご本人が書かれているので、私は触れるべきでないのでしょう。少し残念です。