• 2016年04月11日登録記事

室積光著「史上最強の内閣」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
北朝鮮が日本に向けて核弾頭の発射を準備した。打つ手なしの与党は、この局面を、公家出身の二条首相以下「影の内閣」に委ねた。傑物揃いの大臣たちは、鉄砲玉作戦、将軍の長男の拘束とバラエティアイドル化など、度肝を抜く手段の数々を打ち出す。やがて二条内閣は遂に北朝鮮の謝罪を引き出し、役目を終えて京都へと戻っていく。

最初から引用で恐縮ですが、二条内閣が登場する前振りの台詞が痛快。

その鈍い反応に苛立ったように浅尾首相は言葉を続けた。
「皆さんも、あの二世、三世ばかりの政治家に何ができるかと思ってたでしょう? 地盤、看板、鞄を引き継いだだけのボンボンばかりで大丈夫か? って思ってたでしょうが、本当のところ」

ということで、別途用意されていた「一軍」の内閣が登場し、北朝鮮相手の外交戦を繰り広げていくわけです。荒唐無稽ですが、んな馬鹿な(笑)と笑いながら受け入れるのが、こういうエンターテイメント作品の醍醐味でしょう。

実在の政治家や党名をもじって登場させ、政治問題について言いたい放題したり茶化したりしつつ展開していきます。戦争の悲劇や愛国心等、ホロリとさせる要素もあります。
政治に多少の関心があって、且つ現状に不満がある国民なら、主義の一致/不一致はあったとしても、ポンポンと丁々発止で本音のやり取りがあるので、楽しめます。
ただ、一軍だからといって、思う通りに物事が進むわけでないのは、リアルで良い反面、最強の内閣でもこんなものか、という残念感がありました。それでいて、ミサイル発射以降の展開が駆け足になり、四カ国会議はトントン拍子で決着するにも拍子抜け。
また、外交問題以外も語ってはいますが、作中の二条内閣在任期間が短過ぎて、なにも成し得ずに終わるので、内閣を総入れ替えする必要はなかったように感じます。
どうせ最後は日本の勝利で終わるのだから、いっそあらゆる分野に手を入れて、日本を良くしてから去っていく、という娯楽に徹した内容でも良かったと私は思いました。

設定の割に、内閣メンバーのキャラクターは弱いです。
歴史上の人物パロディなので、読者はモデルから勝手に人物像を描けるけれど、その想像に頼りすぎているのでは、と思いました。そもそも、作中で行動が見えるのが、二条首相、山本軍治防衛大臣、服部万蔵情報官、坂本万次郎外務大臣くらいで、その他の大臣たちに、意味を感じませんでした(それが、前述の「外交問題以外は何もしていない」という要素にも繋がっています)。
一方、濃いキャラクターだったのは、将軍の長男シン・ジャンナム。現実と照らし合わせると、いささか良い人物として扱い過ぎかもしれませんが、図太さが憎めないこのキャラクターは面白かったです。