• 2016年04月18日登録記事

田辺聖子著「おちくぼ物語」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
宮家の血を引く中納言の姫は、継母の苛めで「落窪」と呼ばれ、婢のような扱いをさせられていた。そんな哀れな身の上に興味を持ち、遊びで落窪に近付いた右近衛少将だったが、落窪の清らかさに真実の愛を抱き、密かに通った後、彼女を攫って妻にする。その後、少将は落窪の継母に様々な復讐をするが、一通り復讐を終えると、中納言に自分が婿となっていたことを告げ、以後は一家を守り立てていくことを約束する。

古典「落窪物語」を現代語訳+アレンジした小説。
記載の通り、性根の優しい娘が権力者に見初められるという、非常に単純なシンデレラストーリ—なのですが、登場人物たちのやり取りが生き生きしており、新鮮に楽しめます。
また、風俗等もとても分かり易く紐解かれているので、古典の読み難さはまったくありませんでした。

姫は、確かに善い人だけれど、おっとりし過ぎていて、かつ受動的すぎて、主人公としては物足りない面があります。
その分、姫に仕える侍女・阿漕があれこれと奮闘するので、先に登場することもあって、こちらが実質主人公のような感じでした。阿漕は落窪の君の侍女ですが、実際は三の姫にも使われていて、その縁から恋人・帯刀がいたり、姫以外のパイプも持っていて、人間関係が狭くないのが有能侍女の証左として効いていると思いました。
ちなみに、帯刀は右近衛少将と乳兄弟なので色々お供するけれど、従者としては蔵人の少将に仕えており、乳兄弟=従者という思い込みを覆されました。実際に、母親と違う家に仕えることはあるのでしょうか。当時に書かれた作品でそうなっているのだから、あったのでしょうけれど……
苛め役である中納言の北の方は、落窪に通う男がいることを嗅ぎ付けてから、苛めかたがヒステリックにエスカレートして、その辺は読んでいて辛かったです。しかし、苛めの原因には姫への妬みがあるという作者解釈や、自分から降参できない勝ち気な性格はリアリティがあり、憎めない人物だと思いました。

最後の仕返しのうち、清水詣りの件と牛車争いなどは、荒っぽくて不愉快でしたが、最後は円満に終わるので許容範囲。特に、四の君の婚礼に関する顛末を変えてあり、現代人でも受け入れ易い形になっているのが、アレンジの巧いところだと思いました。
ただ、古典通りの展開ではないので、「落窪物語」を読もうと思って本書を手に取るのは間違いだという注意が必要そうです。