• 2017年01月12日登録記事

エレナ・ポーター著 村岡花子訳「スウ姉さん」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
父の倒産と病気によって、スザナは慣れない家事を切り盛りしつつ、ピアノ教授で妹と弟の学費を稼ぐ日々を始める。ピアニストの夢を諦め、婚約者の愛も失い、ひたすら家族に尽くすスザナ。そんな中、地元の名士であるバイオリニスト・ケンダルの伴奏をしたことが切っ掛けで、二人は密かな恋情を抱く。妹弟の結婚、介護していた父の死を機に、自分自身の夢に戻ることを考えるスザナだったが、誰かに必要とされることこそ喜びだと教えられ、ケンダルのプロポーズを受ける。

読んでいる間は、我慢強過ぎるスウ姉さんにイライラしました。心を病んだ父はともかく、姉の犠牲に気付かない鈍感な妹や弟のために、なぜスウ姉さんがここまで自分の人生を犠牲にしなければいけなかったのでしょうか。
終盤、ようやく妹と弟が心を入れ替えるシーンがあって、これで報われるのかと思いきや、読み終わって更なる歯痒さを覚えました。

本作では、人に尽くす生きかたを「善」として描いています。それは確かに高尚なことだけれど、それがすべての人間の喜びなのかは疑問です。
終盤、女流ピアニストという人物が出てきて、「絵画の道を諦めたメリイ女史」というもう一人の「スウ姉さん」と言える人物のことを語り、家族に尽くした人生を「本当の生きがいのある生活」と語ります。しかしメリイ女史自身は、

「あなたはほんとうに生きがいのある生活をしている。私なんかはまったく無意味の生存だ」

と手紙に書いて寄越しているのですから、実際は自分の人生に満足していないのです。
こんな一面的な女流ピアニストの言葉に感化され、家族に尽くす道に戻ったスウ姉さんに脱力しました。
結末に関しても、結婚を女の幸せとする価値観は構いませんが、なぜ職業人として自立する夢と結婚を両立できないのでしょうか。ケンダルと結婚した上で、伴奏者としてピアニストの夢も完遂するラストであれば、報われた感じがしたと思いますが……。

「本人が心からしたかったことを諦める」という苦過ぎる終わりに、時代の差を感じた読書でした。