• 2009年04月21日登録記事

女のように軟弱な上、文字も読めない愚鈍な王子――
城壁の向こうから聞こえる密やかな囁きの意味を理解した途端、ホゲは弾かれたように飛び上がり、陰口を叩く連中をきつく懲らしめてやろうとした。
その腕を掴んで引き止めたのは、噂の王子、他ならぬタムドクだった。
「……いいんだ」
大きな瞳を細め、困ったように微笑む。その表情と向き合うとホゲは何も言えず、諦めと共に槍を放り出すと仰向けに寝転んだ。
実のところ、タムドクが揶揄にされている現場に居合わせるのは、これが初めてではない。最初の時こそ、タムドクの為に憤ったと言うのに当人が止めるものだから、次第に彼への腹立ちが勝って、取っ組み合いの喧嘩をしたものだけれど、今はタムドクが決して噂を否定しようとしない事が分かっているから、その意志を尊重してホゲも押し黙るのが常だった。
しかし釈然としない気持ちは否めず、ホゲは天を睨んだ。
大人達がもっともらしく話している話は嘘だらけだ。
タムドクは賢い子供だった。“自主練”の他は、よく書庫で物語を読んでいることをホゲは知っている。話して聞かせた城壁の外の出来事も良く覚えているものだから、彼が王宮の外に出た事がない事実を時折忘れてしまう。打てば響くように返る会話の楽しさは、他の者との会話がつまらなくなるほどだ。
――槍の腕が上達しないことだけは本当だったけれど。
ホゲに倣って槍を放り出し、寝転がったタムドクは、幼い頃と変わらず、ホゲの不出来な弟子だ。
構える姿に限って言えば一端の武人に成長したが、いざ立合うと、最後に必ず大きな隙を作ってしまうものだから、たった一度を除いて、ホゲの白星を示す小石ばかりが積み上げられている。
それでも、彼が本当は良い友であることは本当だった。
「……いいんだよ」
もう一度、タムドクが言ったので、ホゲは薄く頷きそのまま天を見上げていた。


前述の通り、原作ドラマは見てないので、あくまで花組版太王四神記からのイメージ。

役者の年齢や子役時代の身長差のこともあり、ホゲがタムドクより兄ぶって見えるのですが、要は出来の悪い弟分に優越感のような感情を持っていたのではないかなと。
だから、武道大会で一度槍の仕掛けを暴かれた後でも、あれは「まぐれ」くらいの認識で、実戦で負ける筈ないと思ってる。
でも実際は、タムドクは親友のホゲにもずっと完全な素顔は見せてなかった上に、それが見抜けていなかったホゲは、結局空回り人生なんだなぁ。