• 2012年03月登録記事

2009年にエイプリルフール限定公開したBASTARD!!サイトより再録。
魔戦将軍同士で考えるマカパインのこと。


 あれは卑怯な男だ、とイングヴェイは思う。
 戦う以前に罠を張り、必ず自分の土俵で勝負を挑む。そのやり口を賞賛する者もいたが、騎士であるイングヴェイからすれば、栄えある魔戦将軍の一員とは思えぬ手口である。
 何よりイングヴェイが困惑するのは、彼から向けられる敵愾心である。
「私のことが不快ならば、正面から挑んでくれば良い」
 そうすれば逃げ隠れせず受けて立つと言うのに、実際にはマカパインの方が逃げているのだ。
 ボル・ギル・ボルが頷いた。
「あの御人は決闘するタイプではござらん。もし決闘すると言い出されたら、指定の場所に向かう道を良く調べる必要がござるな」
 敵を鎧ごと両断する鋭利な糸を仕掛けるのは、あの妖縛士の常套手段だ。
 その時、窓辺に腰掛けた吟遊詩人の爪弾いていた竪琴の音が止み、暫しの逡巡の後、音の代わりに言葉を紡いだ。
「貴公等はマカパインを好まぬようだが、私は少し彼に共感するところがあるのだ」
 魔戦将軍の中で最も清浄な吟遊詩人がそう言い出した真意が判らず、イングヴェイは顔を顰めた。
 ボルもまた同様に首を捻り、問いかける。
「シェラ殿が、でござるか?」
 詩人は深く頷くのに併せ、長い髪が揺れた。
「貴公等のように無二の強さや技術を持つ身でないのでな。卑怯な真似でもせねば、カル様のお役に立てないのではないか、とは私も考えるのだ」
「だが貴公はそうはしないだろう」
 たとえ同じ事を考えたとしても、実行する者としない者では天と地の差がある。イングヴェイはそう思い直ぐに否定したが、シェラもまたたじろぐ事なく答えた。
「私は楽師だ」
 その言葉は決して強いものでない。しかし二人に気付かせるには充分だった。
「戦いで貴公等の働きに劣るとしても、私は私のやり方でカル様のお役に立てる」
 マカパインは違う。イングヴェイやラン、ジオンと言った歴戦の強者と共に、戦場で成果を上げねばならない。
 その時、敢えて汚名を被ることも、選択の一つである。
 それを考えず悪し様に評したことが悔やまれるのだろう、ボルの両目からは滂沱の涙が流れていた。
 シェラは不意に苦笑して嗜めた。
「勿論、好意的に捉え過ぎているのかも知れないぞ」
 だが最早イングヴェイも、マカパインをただ非難する事は出来なかった。
 主君の理想を実現する為に己が身のすべてを捧げたのは、イングヴェイ自身でもあった。


マカパインは小狡く卑怯でナンボだと思っているので、敢えて乙女視点を用いて好意に解釈すると、むず痒くなります。
シェラは乙女、インギーとボルは騙され易い、ということで。
これにてバスタード再録打ち止めです。

田中ロミオ「AURA〜魔竜院光牙最後の戦い〜」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
高校に進学した佐藤一郎のクラスには、自分を魔女だと妄想しコスプレで登校する佐藤良子が在籍していた。周囲から虐められた良子は、妄想世界に「帰る」ための投身自殺を図る。かつて己も「中二病」だった一郎は、自分の過去を告白して良子を押し止め、2人は「普通」の人間として日常を過ごす戦いに挑むことを約束する。

日常からファンタジーに片足突っ込む話なのかと思いつつ読んだら、真っ当な現実世界物でした。
所謂「中二病」というものを嫌と言うほど学ばされますね。勿論、現実にこんな痛々しい妄想集団がいるとは思っていません。……いないよね?
「妄想戦士」たちは、他人の話を聞かず否定する癖に、自分を貫き通す勇気もないあたりが不愉快だったので、彼等を軽蔑している一郎には共感しました。
結局、他人より偉い「特別な自分」でありたいという心理なんですよね。彼等は他人の立場を思うとか、共感するとか、そういう人付き合いを円滑に進める為の努力をしておらず、自分本位だと思う。もっとも、一郎ほどオタク性を徹底的に隠さなくても、普通の人付き合いはできると思いますけれどね。
「普通を受け入れよう」というメッセージが良かっただけに、物語のラストは個人的に不満でした。
オチが欲しかったんだとしても、アクセサリー職人の久米さんだけで充分だったと思います。
それにしても、二つ名や美麗な戦闘描写にむず痒くなるプロローグが、あの伏線だったとは!

教室内序列(スクールカースト)という概念は本作で初めて知りました。私の学生時代には、こういう言葉はなかったかな。でも、そういう「グループ」や「○○キャラ」「序列」は存在していました。
イジメシーンもありますが、イジメ側の「女王蜂」大島ユミナの理屈も分かるので、そんなに残酷には感じなかったですね。

なお、本作の出版は小学館ガガガ文庫ですが、電撃文庫(ブギーポップ)や角川文庫(ロードス島戦記)など、他社の作品名が使われているので、ちょっと驚きました。

現在地:ジブラルタル海峡(エピソード「Gibraltar War」クリア済)

今回のプレイ範囲は、3つ首の竜ハイドラを倒すためのアイテム・叫びの笛を求めて、普通のRPGのような「おつかいイベント」が中心。
と言っても行き先は判明しているので、船を出してもらう為に村人の間を行ったり来たりするだけ。
でも、クエストモードしか発生しないエリアは新鮮でした。
火山では、叫びの笛が入っているという宝箱を最後に取ろうと思い、先に敵を殲滅したら入手してしまいました。開けずに終わってしまった宝箱の中身が気になるけれど、またミミックだったのかしら?
叫びの笛を使って無事ハイドラを倒し、第2章が終了。
「味方殺し」の異名は、本隊が全滅していた責任を負わされた為だったんですね。この時の戦争と言うのは、ロムルスとラインメタルの戦いだったと思うのですが、出奔したダニエルはどういう経緯で連邦まで流れたんでしょうか。

反乱軍に参加したフュリスの「理由」を、テティスは自分勝手だと評したけれど、最初の動機はなんであれ「人が死に国が滅ぶ御伽噺」を現実だと知ったから退けないと感じたのは、子供なのに偉いと思います。

おつかいイベントの途中、魔法使いエルマが有無を言わさず加入しました。
待望の魔法使いでしたが、移動速度は遅いし術を唱えるまで時間が掛かるし、威力や範囲も弓と大差ないので、詠唱が要らないミファ、ロブン、シュタイアで充分だと結論付けました。

それから、ハイドラを倒した後、そろそろツキカゲと良い勝負ができるのではないかと思って「オケアノス」に再挑戦しました。
元々強いのに、「写し身」で復活する上、調合薬も2回使用する卑怯具合に吃驚しましたが、なんとかギリギリの所で勝てました。1回だけ技を完全防御する「イージス」を活用し、回復はアイテムに頼るのが肝ですね。
その後、なんと雇う選択肢が出て来たので、出費を取り戻す為に思い切って5000G払ってみました。
……そうしたら、エルマが仲間から抜けてしまいました。

愛してないのね?
(画面注釈)どういう選択肢だ、これは。

2軍でしたので戦力的には構わないのですけれど、陰険な親父と若い女の子の2択と考えると、別の回答もあったのかなぁ。
ちなみに、ツキカゲの武具が驚きの高性能アイテムで、これに5000Gの価値があるなと思いました。

谷川流「涼宮ハルヒの憂鬱」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
平凡な日常に憂鬱する女子高生・涼宮ハルヒは「宇宙人や超能力者を探して一緒に遊ぶ」目的の部活「SOS団」を設立した。だが実は、ハルヒは現実を思い通りにする力を持っており、SOS団に集められた部員こそ宇宙人や超能力者であった。

いまさら有名ライトノベルを読んでみるシリーズ、第3弾。
「涼宮ハルヒの憂鬱」は、第8回スニーカー大賞の大賞受賞作。宝島社の「このライトノベルがすごい!」ランクイン常連作品。

これまでに読んだ「フルメタ」「狼と香辛料」は、さすがに有名作なだけあって分かりやすい面白さがあると思ったのですが、「ハルヒ」は私の好みと合いませんでした。
一言で言ってしまえば、最重要キャラクター・ハルヒが可愛くないのです。自分本位な奇天烈論理を振り回し、我侭を言っているだけで、まったく共感できません。特に、善良な部員で構成されたコンピュータ部から、犯罪紛いの手段でコンピュータを1台強奪してくるくだりが苦痛でした。
全体的に、思い通りにならず、悔しがったり怒っている時の方がまだ可愛く感じられたかな。
その他の部員では、長門有希の性能が他2人と比べて強過ぎ、バランスが悪い気がしました。

あらすじは、纏め方にちょっと悩まされました。
話の最終的なテーマは、ハルヒが成長してワクワクする超常ではなく退屈な日常を受け入れる点にあるのかなと思います。ただ、物語としての面白みは、SOS団を設立した時点でハルヒ目的の叶っているのに、本人だけがその事実を知らない点にあると感じたので、このように記載してみました。

2009年にエイプリルフール限定公開したBASTARD!!サイトより再録。
原作・背徳の掟編設定。


 終わりなき放浪の日々に、人々は頭を垂れ、導き手たる三人の魔戦将軍に従い歩んでいた。
 ――俯くことの利点は、互いの顔に在る絶望を見ずにすむことだ。
 振り向き道を示したマカパインは、困憊した仲間と民の様子にそう述懐した。
 先頭を行く彼とて、行き先にあてなどない。ただ天と地獄の狭間を逃げ惑い、人の命を繋げているだけである。
 時折天使の襲来や魔族の気紛れに人数を減らし、希望もなく、只管に民を連れて彷徨い続ける己の滑稽さに、時折マカパインは笑いたくなる。しかし笑い方を忘れた口唇からは、溜息が吐き落とされるだけだった。
 死と言う名の諦観に身を委ねたくなる想いは、皆無でない。死ねばそこで総ては終わる。この生き地獄において、安息の死は幸福な夢想ですらある。
 だが生きていれば、為せることもある。ならば這いつくばってでも生き抜き、明日に進むことを選ばねばならない。
 それがこの地獄を現出させた一因である己の義務だと思いながら、マカパインにはもうひとつ、密かに期待することがある。
 あの日彼の前に広がっていた美しい世界は、その存在を知ると同時に失われてしまった。
 あの男が健在ならば、それでも世界は常に美しいと言うのだろうか。この地獄にも煌めくものがあると、気付かせてくれるのだろうか――。
 その問いの答を得るためにも、今は生きねばならなかった。


マカパインは、敗北自体より、その後のガラとの出会いで人生が変わったと思います。
それとも、あの樹海が大霊界だったのでしょうか。