• 2015年05月30日登録記事

日誌を書こうとしたら地震があったので、慌ててコンピューターの電源を落としました。広範囲に渡る揺れだったようですが、マグニチュードの割に震度はそこまで大きくなくて安心しました。

コリー・ウィルス著 大森望訳「ザ・ベスト・オブ・コリー・ウィリス 混沌ホテル」

中・短編SF集。
最初が表題作「混沌ホテル」ですが、これが一番困惑する作品でした。訳者後書きには下記のように記載されていて、正にこの通り。

量子論をマクロレベル(というか、日常生活)に適用した“見立て”のおもしろさがミソなので、そこがぴんと来ないとどこがおもしろいのかよくわからないーーというか、隔靴掻痒の気分を味わうかもしれないが、なんとなくサイセンスをネタにしているらしいハリウッド観光コメディだと思って読んでも、けっこう楽しめるんじゃないかと思う。

私は、まず量子論というもの自体がぴんと来ないし、キャラクターにイライラするし、という具合で楽しめなかったですね。
そのせいで、残りの4作は読まずに止めようかと思ったくらいです。
でも結論から言うと、私が面白くないと感じたのはこの1作目だけで、あとは面白かったのでした。

ガラッと印象を変えたのが2つ目の短編「女王様でも」。
なんと、月経をネタにした作品というアイデアの段階で脱帽。結局、なにが起こるという話でもないのですが、女同士の会話の応酬が面白かったです。現代でも「健康のためにはピルを飲んだ方が良い」という人と、「自然に反している」という人とがいますから、現代女性にとってもリアルなお話ですね。

中編「インサイダー疑惑」はインチキ霊媒を暴くデバンカーの話。
SFというより、どちらかというとミステリ仕立てで、懐疑主義者の男が美人助手と霊媒を見に行くと、お定まりの「アトランティスの大神官」の降霊をやっているが、突然雲行きが変わり……という導入。
この導入で、いかに観客を騙すかという詐欺の技術が語られているのがまず面白いし、テーマとなるヘンリー・ルイス・メンケンという人物が実に振るっています。私はメンケンについてまったく知らなかったのですが、彼の金言を読むだけでも興味が掻き立てられますから、その「本人」が登場するとなれば、面白さは保証されたようなものでした。

短編「魂はみずからの社会を選ぶ -侵略と撃退:エミリー・ディキンスンの詩二篇の執筆年代再考:ウェルズ的視点」は、ディキンスンの詩を論文仕立てでSF的解釈したコメディ。
最初困惑したけれど、受け取りかたが分かったら笑いっぱなし。こういうお話のスタイルもあるのか、と驚きました。

中編「まれびとこぞりて」は、宇宙人との交流を描いたお話。私は聖歌の知識があり、歌がある程度わかるためそれなりに面白かったけれど、人の話を聞かない人間が出てくるので疲れました。
でも、先方からアプローチしてこない宇宙人とのコミュニケーションを模索するという視点は面白かったです。

全体的に、女性作家ならではのSFなのかもしれません。体験を巧みに折り込んでいたり、ユーモアに溢れていたり、なかなか楽しめました。
それだけに、表題作が一番評価の難しい、読む人を選ぶ作品だった点が残念だなと思います。