• 2010年11月03日登録記事

酒見賢一著「後宮小説」

中学校の図書室で、一度手に取ってみた事があります。試し読みのつもりで捲った箇所が艶かしいシーンだったことと、タイトルから受ける印象の微妙さに気後れして結局借りませんでしたが、どこか惹かれるところがあったので強烈な印象を残していました。
その作品を、十数年経って、ようやく読む事が出来ました。
調べてみたら、直木賞候補作になっていたのですね。だから学校にも入っていたのかな。

選評で「軽さがある」と評されたのも頷ける、さくさくとした読み応えでした。
キャラと展開はそのままで、もっと感動的な大作風に仕上げることも出来たと思うのですが、「歴史資料を元に小説にした」と言う体裁を最初から最後まで徹底的に貫くことで生んだ、あえての軽さだと思います。
歴史書や後世の意見と言う第三者の視線が作中に入る手法は、どことなく銀英伝に似ていると感じます。
が、未来を舞台にした銀英伝と違い中国王朝物ですし、冒頭にしれっと西暦で示されるので、途中まで架空歴史小説であると言う確信が持てなかったです。良く作り込んであると感心しました。

作品の一番肝となるアイデアは後宮を子宮のメタファーとした事だと思いますが、これが後半にきちんと生きてるのが面白いですね。
お話自体は特別眼を惹く展開だとは思わなかったし、官能的な表現が多いのでところどころ気恥ずかしいのですが、読了感が不思議と良く、なかなか楽しめました。
中学生の時に読んでいたらどう思ったのかな。逆に面白さが分からなかったかもしれません。

銀河は、最初から最後まであまり印象の変わらない主人公。格別才女でなく、特に序盤の無知には少々頭の痛い思いがしましたが、正妃になってからはその変わらない傍若無人ぷりが、立場に似合わぬチャーミングな点となっていました。
双槐樹の正体は直ぐ思い至ったけれど、地の文で女と明記されたので読み間違ったと思っていました。読み返したら、単に銀河の印象として双槐樹の事を語る時に女と言っていただけで、断定はしていなかったんですね。
玉遥樹は、最期に美学があったので悪くない印象を残していますが、思い返すと凄い恐ろしい人物ですよね。双槐樹への執着ぶりが凄過ぎる。江葉と世沙明が、それぞれに愛嬌あるキャラなのとは一線を画しています。
渾沌は面白いキャラ。個人的には、作者はこの人物を書きたかったのかな、と感じました。
宦官の真野は銀河が王妃になった後もっと関わって来るだろうと思ったら、まったくそんな事はなくて拍子抜けしました。

ファンタジー大賞の賞品の一部だったとは言え、良くこの作品をアニメ化したな、と思います。
玉遥樹と双槐樹の関係は変更されているようだけれど、菊凶などはどう描いたんでしょうか。