• 2017年03月08日登録記事

朝井まかて著「すかたん」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
夫が急死して婚家を出され、一人慣れない大坂で暮らす知里は、青物問屋の若旦那に噛み付いた縁で、お家さんの上女中として働くことになった。“すかたん”な若旦那の思いがけない気遣いや青物への情熱に触れるうち、知里の中に若旦那を支えたい気持ちが生まれるも、互いに想いを口にせず意地を張る性格の二人は、拗れてしまう。やがて江戸へ帰る決意をした知里に対し、若旦那は初めての競りを成功させた後、雛壇から大坂の青物の口上を述べ「帰るな」と呼び掛ける。

実にエンターテイメントな作品で面白かったです。
最初は知里の状況が追い詰められていて、少し息が詰まる感があったのですが、青物問屋・河内屋で働き始めてからは、生来の負けん気と明るさが出て、テンポが良く軽やかに読み進められます。

要所で登場する食べ物が、巧い具合にお話を彩っています。
主人公自身は女中なので、青物問屋の商品自体にはさほど触れないものの、日々の食事の描写を読んでいると、きちんとした食事をしたくなりました。

ただ、主人公のどこに前夫・数馬や若旦那が惹かれたのか、ちょっと疑問が残ります。もちろんいい子なのですが、それほど魅力があるようにも感じません。
序盤は大坂を見下しているような感じの悪い部分があるし、女中仕事に対しても自分の気持ちが優先で不誠実に感じるところがありました。もちろん、次第に大坂に馴染んで好きになっていく、お家さんの厳しさも理解して真面目に取り組むようになる、という展開なので、序盤が悪い状態であることは構わないのですが、好かれるならば、知里の姿勢が改善されて以降であって欲しかったです。

そんな不満はありつつも、全体的には生き生きしたキャラクター揃いでした。
悪役の伊丹屋が、嫌な男ではあるのだけれど、散らばった小銀粒を畳の縁の間から搔きだすところで、なんだか急に憎めなく感じたのが印象的でした。