- 分類読書感想
小路幸也著「小説家の姉と」
【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
大学生の朗人は、五歳上で小説家の姉から頼まれて二人暮らしを始めた。やがて姉、高校時代の事件を契機に疎遠だった幼馴染み、恋人と過ごすようになり、姉と幼馴染みが結婚を前提に付き合っていたことを知る。
淡々とした日常と観察が続く、さらさらと読めるお話。
小説家が、小説家を身内に持つ人間の視点を装って小説家を語る、という要素が面白いところだと思います。
主人公を始めほぼすべての登場人物が、一歩引いた、俯瞰の視点で物事を見ているように感じます。そのため、主観で物事を断じ、他人を振り回したりする人物がいません。
とても大人で健全な展開で好感を抱きましたが、お話としては起伏がないと言えます。
猫の脱走や母の入院など、大きな出来事もあるのに、読み終わった後は「これという事件は起きないお話」という印象だけが残りました。
クライマックスになると思って読んでいた、姉と幼馴染み・千葉の交際が明らかにされるシーンも、実際に訪れてみると比較的淡々としたものでした。一足飛びに結婚という単語が出て来る点は驚かされたけれど、交際自体は朗人たちも勘付いていたから、動揺する時期は過ぎていて、報告されて、受け入れるという儀式を経ただけでした。
この起伏のなさが、「普通」の生活感かもしれません。
作品の中の言葉を使うと、そんな普通の生活の中に「種を蒔いた」お話ということで、地味なお話なのに最後まで飽きずに読まされました。